74話
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い。そんなに昔のことじゃないのに、何か重要なことを忘れている気がする。それなのにそれが何だか思い出せなくてもどかしい―――。
(トムキャット01、聞こえているか)
「こちらトムキャット01、SF702聞こえている」
(出撃タイミングはこちらでカウントする。いいな?)
「了解」
一瞬までの思惟を消して、クレイは操縦桿を握りなおした。
(こちらSF702、カウント開始。30、29、28、27……)
始まる。あと30秒もしない内に始まる。
戦慄不安苦悶期待悦楽快楽―――ぐちゃぐちゃに浸透し合った持続が混淆し、クレイは歯が砕けるほどに噛みしめた。
(5、4、3、2、1、カウント0!)
瞬間、クレイの全感覚神経が励起した。サイドコンソールに素早く規定のコードを違わず入力する。入力を受け付けたのか、その広いスペース全体が赤く染まり、警告音が木霊していた。
重たい音と共に頭上の隔壁が展開していく。何十mかほどの最後の隔壁が開き、昏い空が目に飛び込んだ。
言葉をしゃべる暇は無かった。ガントリーもろとも隔壁解放と共に上部にスライドを始め、一気に圧し掛かった負荷Gによって舌を噛み切らないようにするので精一杯だった。
がこん、という拉げるような音と衝撃がクレイを打ち付ける。
その苦悶は刹那。クレイは、一瞬で己の為すべきを理解した。
前方数十m先、空目掛けてロングバレルの支援砲を構える、黒々しい巨体が網膜に約着いた。
コロニー守備隊で運用される《リックディアス》。
見知った女の顔が幻影となって硝子体に浮かんだ。鮮やかな輪郭を描いた敵意がクレイの持続を占めるのと、身体がスロットルを開くのは全く同時だった。
バックパックと腰部、脚部のスラスターが厖大な閃光を爆発させ、一瞬でトップスピードに乗ったミッドナイトブルーの熊鷹がコンクリートの密林を矢のように飛翔する。
狙うは頭部コクピット。《リックディアス》が気づき、反転しようとした時には既にケリがついていた。
掬い上げるようにして突き出された左腕のシールド先端に装備されたヒートクローは、《リックディアス》のカメラユニットを、機関砲を、生体ユニットを一撃の元に屠った。
じわりと浸食する奇妙なパシオー。その霊魂の種類を判断している暇は、無かった。
頭蓋に閃く鮮烈な悪寒。それが敵意というカテゴライズのされる志向性と理解したのは、計器が敵MSの接近警報のビープ音を鳴らすよりワンテンポ早い。
左方向、ビルから半身だけを覗かせて、支援機関砲の砲口を向ける《リックディアス》。
相対距離確認。
機関砲では貫けない―――武器選択、回転弾倉型リボルビングランチャー対MS用榴弾を選択。
敵からの砲撃回避―――可能。
判断は玉響。
《リックディア
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