74話
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ぐに判別できた。ヘルメットのせいで綺麗な銀髪も見えなかったが、きっと間違いはない。
と、その小柄な体躯がこちらを見る。目出し帽をつけていたが、クレイをはたと見据えるその紅い瞳は違えようもなかった。
目が会った、と思ったのは偶然だろうか。
エコーズの部隊が隔壁へと向かう。あのイサカ―――とかいう男に促されて、最後まで《ゲルググ》に視線を向けていた少女も、後ろ髪引かれるように人の波に従った。
その、前に。もう一度だけ振り返ったエレアは、小さく手を振って、そうして再び流れの中に消えていった。
彼女は何を意図したのだろう。
またね。
そう、きっと、それの筈、なのだ。
ヘルメットのバイザーを上げる。収納スペースにあったタオルで顔を拭き、大げさに溜息を吐く。
一人での戦闘など狂気の沙汰ではない。現代戦闘とはチームを組んで戦うものであって、騎士のように勇猛果敢な一人の英雄はお呼びではないのだ。
落ち着くようにと装備に目を流して、クレイは咽喉を鳴らした。
90mm機関砲に装備されるヤシマ重工社製アンダーバレル式200mm多目的回転弾倉グレネードランチャー、その弾種の中にある散弾は、明らかに対歩兵を意識したものだ。
MSが歩兵に対する恐怖の象徴だったのは一年戦争の中ほどまでの話だ。長足に進化した歩兵携行用対MS用火器は、然るべき状況で用いれば歩兵であっても容易に18mの巨人を殺戮せしめる。市街地で歩兵を伴わないMS運用の想定が根本的に愚行以上のものではない理由は、まさにそれなのだ。
少なからぬ可能性の元に、クレイはこの散弾を生身の人間の集団目掛けて撃ち放つのだ。無数に四散した金属断片は人間の皮膚など濡れた紙に指を刺すがごとく抵抗など感じぬままに切り裂き、その内側にある筋繊維をずたずたにする。個の人間たちを、一個のミンチ肉のようにすることなど容易いことだろう。
覚えておけ、とクレイの内なる誰かが言う。キャニスターのトリガーを引けば、かつて尊厳だったもの、肉塊と成り果てたものが目に入るだろう―――。
今更だ、とクレイは己の検閲官に言い返した。人殺しなど、もうしてしまった。それがより、生々しいリアリティを伴うか否かだけの違いだ。その違いで自覚的になるなど、無神経にもほどがある。ただクレイにとって、それは任務であり義務である。言い訳と詰問されれば完全には否定しないだろう。事実、その言葉をクレイは口の中で呟き続けていた。だが、それと同じくらいに、クレイ・ハイデガーという場が為さねばならぬ義務であることも確かで、その意識を確かに持っていた。
そう、――も、言っていた。
身命を賭して、その義務、任務という言葉を示した――。
―――何だろう、さっきも、そうだった。何かを思い出せな
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