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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
72話
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 鼻をつく血の匂い。
 サイド8コロニー守備隊格納庫には既に活気がなく、ただ黙然と作業に従事する整備服の男たちと、身体中から真紅の液体を流して血だまりを作る亡骸が転がるばかりだ。
 ノーマルスーツの男が遺骸を睥睨する。
 重要拠点という言葉に安心し、腑抜けた間抜けども。嫌悪と侮蔑を惹起させたのも、仲間の整備服の男が声をかけるまでだった。
「『ラケス』は無事に『銀の弾丸』を受け取ったとのことで」
「了解した」
 肯きと共に応える。作戦は無事に進行しつつある―――後は『白雪(スノー)(ホワイト)』を確保すれば、作戦は成功だ。顔に笑みを浮かべたのもつかの間、男は整備服の男が言い淀んだように口を閉ざしながら俯くのを確認した。
「どうした?」
「いえ……それが『白雪娘(スノーホワイト)』を取り逃がしたと……」
「何!? それは『ラケス』には報告したのだろうな!」
 怯えたように整備服の男が身を縮めた瞬間、男の腕が頬を何の躊躇も無く打ち付けた。派手な音とともに柔らかい頬をぶたれた整備服姿の男は、醜い悲鳴と共に地面に転がると、目を濡らしながらなおのこと怯えた目を男に向けた。
「馬鹿が、連絡は密にしろと言ったはずだぞ! 我々が寡兵であることを忘れたか!?」
「申し訳ありません!」
 立ち上がった男が頭を下げる。頭を上げたところでもう一発今度は左頬を殴りつけたノーマルスーツ姿の男は、無様に転がる男に侮蔑の一瞥をくれながらも、顔を上げた。
 視界に映る灰色のMSA-099《リックディアス》。特徴的な頭部ユニットに、ずんぐりとした体躯はどこか頓馬な印象を与えるが、単純なカタログスペックならば《ジムV》にも比肩し得る。それでもコロニー守備隊などという部隊に配属されているのは、ジオン系の技術を多く取り込んでいるが故の扱いの悪さだ。もちろん、正規軍でもない男たちにしてみればそれはどうでもいい話で、むしろ腕の良くない自分たちには《ジムV》を上回る対弾性はありがたい。
 そして何より、その名前が好ましい。希望峰を発見した男、バルトロメウ・ディアスに因んで名づけられたその名前は、将に世界を切り開かんとする自分たちの乗機たるにふさわしいように思えた。
 上手く行けば、MSパイロットとしての出番はないと言われていた。もちろん立場上そうなるのが最も好ましいが、やはり元軍属のMS乗りとしてはまともにMSに乗れれば、とは思っていた。
 機会は廻ったのだ。ティターンズ崩壊から既に10年弱。軍を辞めさせられた自分を拾った彼らに報いることが出来る―――。
「総員、傾注」
 ヘルメットに内蔵された無線機に声をかける。
「予定が変わってしまった。どうやら我々の出番のようだ。これより我々はニューエドワーズコロニーに侵入する。コロニー内の試験部隊で実弾を装備している部隊は無
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