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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
71話
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べて胸を張った。
「問題ありません、整備は万全です。連邦(あちらさん)の協力もありましたから、シルバーバレットはいつでも撃てますよ」
「ふん―――奴さんが一枚岩ではないのはグリプスの時に思い知ったが、いつまでも変わらんな」
 呆れながらも『ラケス』はもう一度牧草の山を眺めた。肌を圧迫するような牧草の湿り気の籠った臭気と、微かな熱の感覚。それは果たして錯覚かそれとも―――。
「ウォースパイトとソウリュウの出航は確認しましたがエコーズの動きは掴めませんでした―――すみません」
 気落ちしたように男が肩を落とす。『ラケス』は男の肩を叩くと、首を横に振った。
「流石にお偉方とはいえ、エコーズの動向はつかめまい。これの整備だけでも有難い話だ」
 は、と鍔を握った男が身を縮める。
 責任感のある男だ。横目でうつむく男の煤けた帽子を一瞥する。
 いや、そうではないか、と再び『ラケス』は牧草の山を見上げた。元々、『我々』はそういう人間たちの集まりだったか。己のしなければならぬことが何なのかを理解し、その上で敢えてその選択をした人間たち。
 気管が微かに詰まる感触がする。それは言い訳に過ぎないと理解する己の内なる何かが問いかけられ、そうして『ラケス』は顔色を変えずに、居住まいを正した。左半身に、少しだけ体重を乗せたのだ。揺れた男の体躯は、そうして安定した。
「そう言えば、御子は馬小屋で生まれたんでしたっけ?」
 木を持ち直した男がぎこちなく笑みを浮かべる。
「そこは論争的らしいが。それが何だ?」
「いえ、なんだか似ているなと思いまして」
 男が草の塊を見つめる。
「僕たちが将来世界を変える―――その第一歩として相応しいのかな、と」
 なるほど、と男の視線の先を『ラケス』も眺める。
「だがそれは不都合だな」
「え、何故でしょうか?」
「我々が目指すのは貴族の徳に満ちた世界だ。奴隷道徳に支配された畜群どもが蔓延る世界ではないからな」
 あ、と声を失った青年が俯く。ひけらかしだな、と苦笑いした『ラケス』は青年の頭をぐしゃりと掴んで乱暴に撫でると、枯草の山を登った。
 頂上部に一部分ぽっかりと空いた孔を見つけるや、『ラケス』は孔にかかった梯子を使ってゆっくりとその奥へと降りていく。
 少し降りたところで、今まで窮屈だった空間が俄かに広がる。梯子から手を離し、中のシートに座った『ラケス』は、素早く機体を起動させた。
(同志、聞こえていますか?)
 外にいる青年からの無線通信だった。あぁ、とその他の作業を熟しながら返事を返す。
(同志の《ジェガン》のデータから大部分フィードバックしていますから、おおよその操作感覚は同じだと思います。でも機体がそもそも違いますから、細かいところは微妙にずれると思います。実際に動かしながら調整してください。
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