70話
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ー、雪だよ雪! 綺麗だね」
振り返って、両手を万歳するようにしながらぶんぶんと両手を振るエレア。後ろを歩く男は驚いたようにエレアを見た後、微笑を浮かべてその小さな少女を見遣った。
「なんで雪なんか降ってるんだろうな」
黄昏を受けて煌めく氷の結晶を眺めながら、クレイは数時間前に会ったあの老紳士の顔を想起していた。
道行く人々の顔つきを見れば、天気予報がどうだったかは察するに余りある。
何故、あの男はそんなことを聞いたのだろう―――頭の片隅に棘が刺さったような違和感を覚えながら、クレイはエレアの隣に立った。
まぁ、どうでもいいことなのだろう。そんなことよりも、この雪が降っているというこの事実の方が大事なことのように思えた。だって、雪の下にいるエレアはとても綺麗だから―――。
結晶を払うように、エレアの頭に手を乗せる。不思議そうにクレイを見上げる少女の形相を見ながら、クレイは得も言えぬ幸福と果敢無さの混然とした有機的持続を感じた。
時の経過と共に人は変わる。人間の一貫性とは全くの幻影であり、1年前の自分は全く異なる赤の他人である―――。
そうかもしれない。そうではないかもしれない。ただ言えることは、愛とは永遠であるというのは騙りであるということだけだ。
何故か惹起したその寂れた情操に困惑していると、エレアは特に何を言うでもなくクレイに身体を預けた。
ちょうど彼女の頭頂部がクレイの首元あたりにくる。頭頂部の旋毛を見下ろして、クレイはその彼女の重さに羞恥を感じながら周囲を見た。
咎めるような視線もあれば、特に気にしていない―――というか、そもそも同じように抱き合ったり口づけをしたりする人々もいたりしたり。
「ねぇ、この後どうしよっか」
エレアが顔を上げる。彼我距離は僅かに10cmほども無くて、その綺麗なかんばせに顔を赤くしながら、クレイは「決めてないのか」と不自然なほどに素っ気ない声を出した。
こくんと肯くエレア。
「そう言えば」クレイはそれについては別に気にしないことにした。「プレゼントって結局何だったんだ?」
「それなんだけど…」
どこか歯切れが悪そうに彼女は俯く。彼女の手がジャケットを握る力はどこか強くて、どこか弱弱しかった。
何か、彼女が次に言う言葉を聞いてはならないような気がした。それでもきっと、それを聞くと何か重大なことが生じるような、そんな予感がクレイの頭の奥の中で腫瘍のように凝り固まっていく。
彼女が口を開く。さくらんぼみたいな唇が蠢動して―――。
―――クレイの耳朶に触れたのは、エレアの声ではなかった。
コロニー全体に響くようなその甲高い音―――それが何なのかを頭で理解するより早く、クレイは自分の腕の中の少女の顔を見た。
どこか怯えたようで、それでも己の立場を理解して
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