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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
69話
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なぁ」
 ため息交じりの嘆息も、今日で何度目か。壁に寄りかかったヴィルケイのそのどこか遠くを見るような視線に、ジゼルは呆れていいのか笑っていいのかよくわからなかった。
「ったくおめーはいっつもそれだな」
 ジゼルの内心を代弁するように、ヴィセンテが呆れの視線を向ける。もう一度溜息を吐いたヴィルケイは、頭の後ろで手を組んで、眉間に皺を寄せてどこか恨めし気な視線をヴィセンテに向けた。
「だってもう2月はご無沙汰だぜ? ありえねーよ……」
 がっくりと肩を落としたヴィルケイは、そのままへなへなと床に崩れ落ちてしまった。
 そんなに異性といちゃこら出来ないことが精神的に来るのだろうか―――来るのだろうな、と隣で脱力する男の頭頂部を一瞥した。
 ジゼルは、あまり血統だなんだというのは信じない質だが、イタリア系の男が女とパスタのことしか考えていないというのは冗談半分によく言われることであろう。ヴィルケイを見る限り別にパスタに執着しているでもなしに、モデルで考えればこの男の身体の全部は欲動で出来ていますということなのだろう。だとしたら、現状は極めて不健康な状態なのだろう―――。
「―――戦績は?」
「お?」
「共和国での戦績。それなりに撃墜スコアは稼いだんでしょ?」
 「あぁ、あれね……」よろよろと立ち上がる。
 ヴィルケイはどこか力なく、所在なく斜め上を眺めながら左手の人差し指を一本立てた。
「一人? 珍しいね」
「ないない! こいつの限ってそんな謙虚なことねーよ。桁一つ上」
 あぁなるほどね、と卒爾に見開いていた目を細めて、こくこくと肯く黒髪の男の頭頂部を目に入れた。
 2月やそこらで10人なら十分すぎるではないか―――。ジゼルも人並みに経験がある方ではあるが、この眼前の男の貞操観念はどうなっているのだろう。
 クレイを見習えばいいのに、と思う。あの男はあの男で節操が無い気はあるが、その上でエレア一筋の感じは好ましい印象だ。曰く、人間が天使より優れているという言説のエヴィデンスは、悪を知ってなお善を選びうる存在だからだという。あるいは、昔の政治哲学者の言葉―――相反する思考をもってなお、己のコミットメントを選択できるからである、という。
 まぁ、この男も同じなのだろうなとは思う。ヴィルケイとて、相手を単なる手段以下の存在に見なしてはいない以上、彼の行為は全くの善―――とはちょっと言い難いかもしれないが、少なからず悪ではない筈だ。きっちり気持ちよくなってさっぱりわかれる。それも、また望ましい関係性なのだろう。濃密な関係性だけがパートナーシップではない。
 ジゼルは、腰に手を当てて顔を上げた。視線の先には、ガントリーに収容されたままの紫赤の機体が色も無く佇立していた。
 クレイの乗機であるORX-013SR《ガンダムMk-V》。肩に
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