69話
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た。さらされと銀髪が幽らめく。
「寒くないの?」
―――どうやら寒いらしい。確かに元々やたらと身体だけは頑丈で寒さとかは割と平気な質ではあったが、それでも限度はある。
天気予報でも見ておくんだったか、と思う。元々天気予報など見る質でもないし、天気が思わしくないことを知ったのも外に出てからである。
「いや、寒くはないが」
「ふーん?」
不思議そうに、穴のあくほどにエレアが紅い目を向ける。腰を曲げて上目づかいにする仕草はとても愛らしいのだが、流石に舐めるように上下に視線をやるその感覚にはたじろいでしまう。
いや、そうか、とクレイは身体を強張らせた。
彼女に私服を見られるのは、何やかんやで今日が初めてだったのだ。
「へ、変かな……」
まるで政府高官とでも対峙しているがごとくにぱりっとした姿勢を取る。きょとんとしたエレアはくすりと笑みを浮かべると、ビシッと手でVサインを作って見せる。
「カッコイイカッコイイ」
「そうか……」
ホッと胸を撫で下ろす。エレアのその忌憚もなければ邪気も無い満面の笑みこそが、自分の不安が些末な拘泥だったことの証明の、何よりも明晰なエヴィデンスだった。
「しかし今日は本当にエレアに任せっきりで良かったのだろうか」
「えー、信用無いかな?」
「いや、こういうのはなんというか男がプランニングすると世の中では決まっているそうでして」
「だって前はクレイが一人で考えたんでしょ? だったら今日はわたしの番だよ。権力が決めた魔術儀式なんて気にしない気にしない」
腕組みしながら一人言って、うんうん肯く。なんとなく釈然としないものを感じるのは、自分がその〈世=権力〉に帰属していたからなのだろう―――それでも、やっぱり違和感を感じてしまうが。漠とした表情をしながら耳の裏あたりを掻いた後、クレイはまぁいいか、と表情を緩めた。
「精々楽をさせてもらいましょうかね」
こくんと頷いて、エレアが先に行く―――と、彼女は右手を伸ばして、クレイの左手を取った。
「て、手を繋ぐのか?」
思わず周りを見る。道路の向こうを行きかう人の何人かが、訝しげな視線をこちらに送っていた。
「当たり前じゃん。ほら、早く行こうよ」
いかにも楽しげな表情の彼女が言う。気恥ずかしさを覚えながらも、自分の手を握る彼女の小さな手を強く、それでも力を入れすぎないように握り返した。
「今日はね、クレイにプレゼントがあるんだー」
「あれ、そうなの?」
うん、と強く―――首を縦に振ったエレアに引っ張られるようにしながら、クレイは彼女の後姿を網膜に克明に刻んだ。
その後姿が、どこか吹けばそのまま掻き消えてしまうように、その存在は朧な輪郭しか持っていなかった。
※
「はーいいなぁ、俺も女の子と遊びてー
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