69話
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の良さそうな笑みを浮かべた攸人が言う。ほっと胸を撫で下ろしたクレイは、ふと攸人の表情がちょっと違うことに気づいた。
邪気などなさそうな笑みに少しだけからかいを覗かせたような、かといってそれはからかう積りがあるわけでもなく―――言ってしまえば、なんだか年寄りくさい笑みだった。
「なんだよ……なんか不味いか?」
つい顔を顰めると、攸人は猶更その昔を懐かしむような笑みを深めて首を横に振った。
「いや、なんかお前がこういう相談に来るとはなぁと思っただけだよ」再びベッドに腰を下ろした攸人がクレイを見上げる。
「だってお前がだぜ? 堅物の象徴だとばっかし思ってたのになぁ。それがデートに行くのにどんな服着てけばいいか〜なんて時代も代わったんだねぇ……」
「シツレーな! というか俺はいつから示相化石になったんだよ」
「4年くらい前からだな」
むぅ、と口を噤む。
むしろ堅物だからこうして聞いてるんだぞ、とは言わないことにした。そりゃ攸人みたいになんでも器用に熟せれば良いのだろうけれど、言ったとしても栓のないことであろう。持ち得る者は持たざる者の悩みなど理解はできないのだ。
その、逆も然り―――。
攸人がベッドの枕元の時計に目をやる。銀色の台座に、カルニオディスクスのように頼りなく首を伸ばした時計が9時を20分ほどの時間だと示していた。
「ほら、そろそろ時間だぞ」
「あぁ。じゃあ、行くよ」
肯く攸人を背に、クレイは部屋の出口に向かい―――。
「さんきゅ」
背を向けたまま親指を立てる。おう、頑張れよぉ…―――そんな攸人の声をどこか遠くに聞きながら、クレイは攸人の部屋を後にした。
全長40kmにも及ぶ大型コロニーであるニューエドワーズは、その大部分を軍事施設と各兵器会社の支店が占める。歓楽街は全体の半分より小さい面積ほどの面積だが、整然と建物が並ぶ様はどこか形而上学的な美麗さがあった。自然は自然のままでいいが、17世紀の科学者たちの感想―――人に征服された自然に対するある種の優越も、全く荒唐無稽とは言い切れないと思う。
軍事施設と歓楽街の境界ほどに設置された公園の入り口付近で、クレイは何かのブロンズ像に寄りかかってなんともなしに街を眺めていた。
平日なだけあって人は多い。この大部分はどこかしらの武器会社の関係者だったり、あるいはニューエドワーズ基地で働いている軍人の家族だったりするのだろう。
平和だな、と思う。
記憶の摩耗とは結構速いもので、クレイはまだ2か月も前のことでないあの実戦のことを遥か十数年前のことのように感じていた。
あの時感じた恐怖も、快感も、緊張も。全て色褪せて、なんだかつまらない出来事があった程度の感覚にまで死んでいた。
クレイは心の中でゆっくりと手を伸ばした。その手の先にあるのはちょ
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