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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
69話
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長は、恐る恐る声の方向、自分の右手を見遣った。
「これで5回目ですね」
 金髪をきっちり撫でつけた40代ほどの男の冷たい視線が艦長を捉えていた。
「な、なんのことかな?」
「取り繕いは10回目です。艦長、もっとしっかりしてください」
 溜息すらなく、副長の男が言う。エメラルドグリーンの瞳には呆れと侮蔑が惜しみなく溢れていた。副長の言葉に反論の余地が欠片も無いだけに、艦長の男はうんだのすんだの曖昧な言葉を返して椅子に身を凭れかけて、飲み物を口に含んだ。ジェル状の奇妙な液体はカルシウムたっぷり配合らしい。ラベルにそう書いてある。
 パックの内容物を飲みきり、空になったパックに空気を入れては萎ませるをしながら、生真面目そうにブリッジに視線をやる副艦長を横目で見る。
 ―――端的に、暇なのである。
 14年前の一年戦争時こそ激しい戦闘が繰り広げられたとはいえ、今となっては歴史の隅に追いやられた場所である。少なからず、戦闘の舞台となることはないだろう。先日までは茨の園を占拠していた宙賊風情が時折商船を襲うことがあったが、それももう過去の話である。ネオ・ジオンも首魁たるシャア・アズナブルというべきかキャスバル・レム・ダイクンというべきか、ともかく頭が落とされたのである。後は勝手に瓦解して、土くれとなっていくのであろう。
 それに、もうそろそろニューエドワーズに所属する警備部隊の活動範囲内に入る。今更気を付けることと言えば定時連絡をきちんとすることと、ニューエドワーズの基地司令とまともに会話することである。
 ……よくよく見れば、そばかすのオペレーターはブリッジで化粧直しをし始めているし。弛んでいるとかではなく、それが今の宇宙の空気なのである。
 いっそここでネオ・ジオンの残党が襲い掛かってくれれば面白いのに―――とは流石に……。
「あら?」
 薄くルージュを塗っていたオペレーターが素っ頓狂な声を上げたのは、そんな時だった。
「どうした?」
「いえ、ミノフスキー粒子の濃度が……」
 副長の声に慌てたように道具を仕舞いながら、オペレーターが目の前のコンソールを弄り始める。
どうせ前の大戦の名残だろう―――と、艦長は思いながら、敢えてそんなことを思いながら、素っ気ない素振りでオペレーターの声を待つことにした。
「あれ、これってちょっと……」
 オペレーターの声に明らかな焦りが混じる。
 横に立つ副艦長と目を合わせた艦長がもう1人のオペレーターに声をかけようとした瞬間だった。
(こちら旗艦ユキカゼ、ミノフスキー粒子濃度の急速上昇を認む!)
(こちらブレイウッド、9時の方向に敵艦―――ネオ・ジオンの艦だ!)
 レーザー通信の声が鼓膜を叩くのと、視界に白い閃光が横切ったのは同時だった。エル・パソのブリッジの丁度すぐ目の前を、大出力のメガ
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