68話
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とした表情のままモニカを眺めていた
「ご苦労様、フランドール中尉」
「あ、はい。ありがとーございます」
両手を太股において、ぺこりと頭を下げる。なんだかその仕草と先ほど抱いた感情があまりにも乖離していて、己の幼稚さをありありと見せつけられているようだった。小さく笑う。今まで何十年と様々な位相の世界で生きていたが、このような少女に教えられることもあろうとは―――。
「おばさん、だーれ?」
ぶは、と噴き出した男のスタッフは、すぐに顔をひきつらせてマーサに視線をやった。
「おばさん?」
うん、と肯く。整備兵の数人も聞き届けたらしく、マーサの視界の端で息を殺してこちらを見ていた。
「―――スポンサーみたいなものよ」
ふーん、と彼女は興味なさげに首をかしげるばかりだ。
―――まぁ、別に良い。気にしないことにしよう。マーサは、特に考えないようにした。
少女の紅い瞳がひたとマーサを見据える。その純度の高い混ざり気のない瞳は、無垢であるが故にアプリオリに人を把持する―――。
「―――寒いの?」
「え?」
少女は不思議そうに首を傾げる。そうして彼女は、もう一度ぺこりと頭を下げると、向こうへと行ってしまった。特に引き止める理由も無い。話しかけたのも気まぐれだったから、マーサは遠ざかっていく少女の背中を取り留めも無く追うことにした。
「ねえ貴方」
「は、はい!?」
一瞥すらくれずにその硬直していた男に色のない声をかける。
「スペリオルの次の試験はいつかしら?」
「えっと―――確か1週間後です。今度は完全武装状態での試験ですから身長にならないと―――」
「そう、ありがとう」
男が言い終わらぬうちに、マーサは床を蹴った。
立ち会うことはできない。だが予定通りに事は進んでいる―――。
マーサは、自分を年寄り扱いする少女たちの姿を思い浮かべて、彼女らしからぬ笑みを見せた。
兄以上の政治・経営手腕を持つ彼女は、常に戦場に在った。その戦場の武装は金と言説、男たちの理論が幅を利かせる中で常に戦い続けてきた彼女にとって、表情もまた武器なのだ。それを、今の一瞬だけは緩めた。地球圏を支配する者としての彼女は決してそのような油断はしない、つまり今の束の間の瞬間だけは、彼女は私的な存在だったのである。
だがそれも刹那の出来事。彼女にとって、『私』はずっと奥に仕舞いこまれたものなのである。
格納庫のドアをくぐったマーサの顔は、いつも通りの険峻な顔つきに戻っていた。
―――――それにしても、とマーサは隔壁がゆっくりと開いていく様を眺めながら、思う。
あの言葉は、一体、何だったのだろう?
※
ガスパール・コクトーは、退出していった姿を目で追うようにドアを眺めながら、ゆっくりと席に着いた。
元々ニューエドワーズは
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