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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
68話
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に装備された武装を展開した。
 まるでトンファーのように腕に装備されていた上下2枚のフィンで構成されるそれが一度上にせり上がり、そうしてゆっくりと前方へと展開していく。
 ぽかーんと口を開けた鰐。その武装―――WSプラン406「アームドアーマーBS」に対する彼女の印象は、そんなようなものだった。
 前方にもう1機の《リックディアス》がターゲットとなる装甲板を設置し、素早くアームドアーマーBSの予測攻撃範囲から離脱していく―――。
 少女は、その小さい手でスティックのトリガーを押しやった。
 2枚のフィン型ビーム偏向機を介し、通常のそれよりも遥かに圧縮されたメガ粒子の閃光が昏い世界を両断していった。比喩でもなんでもなく、長時間に及び照射されたビームは偏向機により鞭さながらにぐにゃりと歪み、ターゲットの脇を逸れていったかと思った次の瞬間には、厚さ数10cmの装甲板を真横に切り裂いたのだ。
 情報通り―――少女は、己の所業にさして関心も無く、エネルギーリチャージと次のターゲットのセッティングまでの時間を、ぼーっと過ごすことにした。
 一応、規定通りに武装に不備がないかを素早くチェックし、機体の方にも異常がないことを認めた後に、桿から手を離して、両手で手を組んでぐいっと上に伸びをした。そうして今度は足元のサイドポーチからプラスチックのパックを手に取る。
 強化グリーンティー―――少女が良く飲む飲み物だった。バイザーを開けながら白いキャップをくるくると回して口に含む。
 きゅっとパックを握って内容物を中から押し出す。苦さを甘ったるさでもって全力で殴りつけるようなその液体を嬉々として流し込む。それを美味しい、と思える自分の味覚について思うところは無い。
(エクシードY01、ターゲットのセッティングを完了した。WSプラン406の発射タイミングはそちらに任せる)
「エクシードY01、了解。次弾発射までカウント50。カウント、開始50、49、48―――」
 ※
 ノーマルスーツを着ること自体はそう多くは無い。
 マーサ・ビスト・カーバインはそもそも現場に赴いてあれこれと五月蠅く指図をするような質でもないし、そもそもそういう煩瑣な指図は部下に任せればいい。上の人間が現場に出たところで、現場に対して余計なプレッシャーを与えるだけだ。程よいプレッシャーなら良い。だが、強度の重圧は個人のパフォーマンスに悪影響しか与えないのである。
 それでも尚、彼女がこの格納庫に訪れている理由こそは目の前の機体にあった。
 未だ空気が満たされておらず、無重力の中ではぷかぷかと浮かんでいる整備兵の姿が視界を流れていく。
 MSA-0011X《Sガンダム》。全身を白亜に染めたガンダムは、その偉容に反してまるで神仏の御姿の写し身の如き静けさでガントリーに身を佇ませていた。
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