67話
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人がなにやら神妙な顔つきで知性の足らなそうなコメントをしているところだった。
昨年―――正確にはまだ一年すら経っていない出来事だというのに、クレイはその出来事が酷く他人事のような感覚しかなかった。むしろ、たった数か月前の出来事だというのにもう何百年も前の客観的な歴史的事実を眺めているかのようですらあった。
「もう一年前のことか」
資料から目を離し、ガスパールもその映像を眺めていた。
「えぇ、ですからシャア・アズナブルは現実を見据えていないんですよ。所詮は良い道化ですよ、あんなものは―――」
いかにも知識人といった出で立ちの太った男が嫌悪感を露わにしてコメントしていた。そこからほかの知識人やコメンテーターがコメントして、そうしてニュース映像にはまた大画面で当時の映像が流され始める―――。
「現実、か」
資料をテーブルに置いたガスパールが物憂げに言う。パンを千切ってバターを塗り、そうして口に運んでは、表情をぴくりとも変えずにもう一千切り口に運んでいく。
その顔色は窺い知れない。無表情というにはその視線は苛烈で、でも激情的かというとその姿はあまりに動かなかった。
まるで、そこだけ世界から括弧にでも入れられているかのようだ。周囲の喧騒の存在はこの男を観測する際の障害でしかなく、周囲の頭の悪そうな喚き声に何故か酷く苛立った。
「君はどう思う?」
「何がですか?」
「さっきのコメンテーターのセリフ」
ガスパールはテレビに視線を固定したまま言った。クレイも、視線はモニターの映像に固定させた。
穏やかな声色だ。だが、苛立っている、と思った。何にかはわからないが―――。
「何が彼をそうさせたか、の方が気にはなりますが」
「ほう?」
「元々エゥーゴを任されるほどの大人物でしょう、彼は。そんな人物を駆り立てたのは一体なんだったのでしょう。たとえ既存の法体系では許されないとしても、それでも尚行為しなければならなかったのはなんなのか―――とは、思います。大義があったのか私怨があったのかはわかりませんが、ですからそこに触れないさっきのコメンテーターの言葉は何の重さもない。そもそも現実とは何なのかとかも―――」
ハッとして、クレイは口を閉じた。つい、声に力が籠ってしまった。
クレイの目には、呆気にとられたような顔をしたガスパールの姿があった。
「すいません、つい―――」
「何を気にする? 別に私は上官として聞いているわけではないぞ? クレイという個人に、ガスパールという個人が聞いているのだ」
ガスパールが微笑を浮かべる。はぁ、と身体を委縮させたクレイは、生クリームにスプーンを差し入れた。
「行為を考える際に、そこに込められた祈りを観ることなくして語ることだけはしたくないと思うというだけの話です」
なるほどな、と肯いて
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