67話
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けにも行かず、クレイにはどうしようも無かったのである。
「最近機体の整備にも民間の人間をどんどん入れてるけど大丈夫なんかねぇ―――まぁ、サイド4の再建計画が本格的に動き出すのも10年後だからなぁ。お偉いさんの中にはそっちを優先したいって人もいるみてーだし」
叫び声のような金属音がホールに木霊する。模擬刀が宙を舞い、巨岩のような男が恐ろしい速さで上段から剣戟を叩き込んだ。
クレイはヴィセンテの声をどこか遠くに聞きながら、そのカーボン合金の刃が寸前のところで止まる光景を眺めていた。
※
温いシャワーを浴び、汗を流したクレイは何個か存在する食堂のうちいつも訪れる食道に来ていた。
配膳口から室内に視線を流す。流石に起床時間から少し時間を過ぎたくらいなだけはあるな、と思うほどにはテーブルは埋まっていた。
パンケーキを台座にし、山のように聳えるクリームを乗せた白いプレートを嗄れ声の女性から受け取りトレイに乗せ、クレイは溜息交じりに佇立した。
数百人規模で収容できるにも関わらず、だいたいの席に人が座っている。
流石に相席しないのは無理そうだ―――あまり喜ばしくない事態に少しだけ嫌そうな顔をしていると、ふと遠くでひらひらと手が上がった。
それが自分を呼んでいるらしい、と気づけたのは、その手を上げた人物が立ち上がり、クレイを真っ直ぐ目にしたからだった。
馴染の顔、というわけではない。だが、その年の割に未だに若々しさを感じるその男の顔には覚えがあった。
ガスパール・コクトー中佐。その名前を心の内で反芻したクレイは、ガスパールの席の前へと向かった。途中人とぶつかって嫌そうな顔をされたりしつつ、クレイはなんとかガスパールの前の席に座った。
白いテーブルにトレイを置く。かちゃん、とプレートが鳴った。
ガスパールの手許には資料の山やらが出来ており、食事をしながら紙の山と格闘していたのだろう。
「久しぶりだな。ハイデガー少尉」
まるで旧知の仲、と言った風に柔らかな微笑を浮かべる。中佐という階級にやや身体を強張らせていたが、「作戦前、でしたか?」と応えるクレイの声も、角の取れたものとなった。
「余所者だからかな、周りに人が来ないのは」
「仕事をしていらっしゃるから遠慮するのでしょう?」
「だといいがね」
自嘲気味に肩を竦めて見せる。
案外人懐っこそうというか、無邪気そうな素振りをする人なんだな、と思う。
「まぁ、あと数日したら元の場所へ帰るからな。それまでお客さんで居ることにするよ」
何かのスープを音も立てずにスプーンで掬い、トマトのスープを飲み込む。あちこちでプレートとフォーク、スプーン同士が擦れる鈍く甲高い金属音が鳴る中、優雅さ、気品高さを感じさせる色黒の男の存在は、な
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