66話
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する。焼き餃子なるものも初めて食べたが、薬味の独特な風味と共にタレが辛い。
だというのに心が冷たい。ただ冷静に、自分で語った出来事を系列として冷たく眺める差延が確かに働いている。
そうですか、と応えた男の声を聞いて、クレイは吃驚した。その男の声は、切実さというよりももっと軽さを持っていて、ともすれば微笑でも浮かべているのだろうと錯覚するような声だったからだ。そして、事実その男は微笑―――納得気なような、呆れたような親しげな微笑を湛えていた。
「あーいや、失礼。中尉らしいな、と思いましてね」
「中尉らしい?」
「ええ、中尉はああ見えて結構お堅い人でして。任務がーとか、軍人としての義務がーとか言う人だったんです。規律第一っていうんですかね、俺たちの世代でそう真面目に考えてる人なんていませんでしたから、本当にこういう人居るんだなと思いましたよ」
懐かしむように、男が言う。
彼女の声は遥かな遠雷のように頭の中で木霊する。機内カメラに投影された彼女の顔が朧に甦る。
それが私のやらなきゃいけない責務―――それは、いつ言った言葉だっただろう。不意に頭の奥底、記憶野から染み出してきた言葉がじっとりと前頭葉に浸透していく。
熱いな、と思う。もう気候は夏季をとっくに過ぎているのに、心臓にどろっとした溶岩でも流し込まれているように熱い。せっせと動く炉心の活動のせいだろう、身体中から汗が噴き出てくる。頭からも、咽喉元からも、腋からも、背中からも、胸からも、股関節からも、目からもよくわからない、汚れたタオルから絞ったような液が流れていた。
相変わらずクレイの感情も悟性も素っ気ないが、別にいいのだろう。〈感情〉は今まさに感じている感情に還元され得るものでもなければ、知性も全てが自分の統治のもとにあるのではないのだから。
きっと、身体が理解している。だから、クレイは身体中から液体を流しながら、もくもくと麻婆豆腐を口に入れ、男の語りに耳を傾けた。
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