66話
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起させる言い方。思わず振り返り、声の方へと目をやった。
「よお、探してたんだぜ」
手を上げる男。サービスユニフォームを着こんだ2人のうちの1人、手を上げてクレイに声をかけた男は、薄暗がりでもなんとなく人懐っこい表情をしているのだろうな、と思わせる雰囲気だった。
「俺をか?」
「じゃなきゃここに他に誰がいるよ?」
周囲を見回すまでもなく、確かにここに居たのはクレイ1人だけだった。それにしても、丘を上がってくる男―――神裂攸人の目的は、クレイにはさっぱりだった。
攸人の隣にいる人物は、部隊内の誰かだろうと見当づけていたがどうやら違う人物らしい。攸人とともに、まるで葡萄のようにビニール袋を引っさげた男と目が会うと、親しみ深い微笑を向けた。
「貴方は趙中尉の―――」
「ええ、共和国軍の人間です。中尉の部下でした」
ジオン訛りの英語で男が言う。多少虚を突かれる感覚を味わっていると、ほら、と攸人がビニール袋の中の何個かを持ち上げ、クレイの目の前に掲げた。
持ち手が皺くちゃになったビニール袋を受け取って中身を見てみる。暗がりでよくわからないが―――手を入れて確認してみれば、ジャンクフードらしきものの袋やら、コンビニで買ってきたであろうパンなどが無造作に犇めいていた。
その中の1つは、そういう既製品ではなかった。どこかつるつるながらも表面に傷のあるタッパーの内容物は未だにある程度の温度を抱えたままたしく、ビニール袋越しでも十分に生暖かかった。
「なんだ、これ」
その温かいビニール袋に手を入れて、タッパーを取り出す。角っこのほうだけ開けて匂いを嗅いでみれば、どこか脂っこい、慣れない匂いが鼻の奥に触れた。
「餃子だよ。本当は水餃子が良かったんだけど」
「ギョーザ……? あぁ、東アジアの」
食べたことは無かったが、聞いたことはある食べ物だった。
「なんだよ、夜食?」
「まぁ、そんなところ」
言いながら、クレイの右手に攸人がどっかりと座りこむ。共和国軍の人間も同じようにして座ると、ビニール袋から何かを取り出す。薄手の透明な袋を破き、中からプラスチックの脆そうなスプーンを抜き出すと、どこか親の仇にでも会ったかのような真剣な表情で中身を食べ始めた。
「おい、早く開けろよ」
攸人に急かされ、クレイも仕方なく固い地面に腰を下ろした。そうして中からタッパー2つを地面に置いて、蓋を開けた。
クレイは、自分に渡されたビニール袋のうち1つが比較的重いことに気づいた。その1つを右手に持って、しげしげと眺める。
これは一体何なのだろう―――この目の前の物体が、ではなく、この自分の周囲で始まった珍奇な儀式は。特に言葉も交わさずに器に入った何かをがつがつと口の中に詰め込み、時折思い出したように餃子を器用にスプーンで掬っては咀嚼する2人を
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