66話
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ちとともに後方の任務に就いてきた。当時の方が、よっぽど不幸な人生だっただろう。今の方が、その創造理念に適った人生を歩めているという自己効力感を持てている。
はっきり言って、そんなことを気にしたことが無かった。
どん、と強く押す感覚が頭を打つ。そうして、わしゃわしゃと髪を掻き毟り始めた。
「なんだよ」
不快ではなかったが、敢えて不快そうな顔でエイリィの顔を睨みつけてみる。それでも―――というより、やはり、彼女は「なんでもない〜」と飄々とした素振りのままに通路の先に行く。
よく、わからない奴なのだ。彼女は―――。
ぽつねんと佇むプルートを置いて、すたすたと通路の先を行く金髪の彼女。その背中が遠ざかっていく。背中が小さくなっていく。手を伸ばせば、手のひらの中にすっぽり消えてしまいそうになって―――。
「―――待ってよ、エイリィ!」
不安からか、プルートは思いがけず声を張り上げていた。くるりと振り返ったエイリィは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「ほらほら早く。追いてっちゃうよ〜!」
後ろ向きになりながら、無重力の中を泳いでいく。プルートは壁から迫り出した無重力中での移動のためのレバーを掴むと、遠ざかる彼女の元へと急いだ。
※
クレイ・ハイデガーは、自分の身体に当たる夜風を感じていた。基地内をぐるぐると走り回った後ということもあり汗まみれで、涼しい風が心地よい。
丘を登る。何も考えず、疲労で弱った足を前に進めていく。
さしたる距離ではない。司令部から格納庫のあるブロックへと続く道沿いの、小高い丘。軍靴を少し覆うほどの草が育生するそこは、なんとなく足を向ける場所だった。
なんとなく足を向ける場所である―――と、同時に、クレイ・ハイデガーにとって、その場所は唯一琳霞とまともな思い出のある場所だった。それは思い出というには酷く短く、さして即座核に深々と傷痕を残すほどの出来事があったわけでもない。だが、このニューエドワーズで彼女に関係する場所と言えばここくらいしかないのも事実だった。
丘のてっ辺に立つ。丘、といっても、少しだけこんもしりしただけの土の塊でしかないそれは、別に普通の平地と比べても5mとて上ではないだろう。
ただ人間以外の物が発する音だけが声をかける。
クレイ・ハイデガーは、感情の惹起の無いままに、ただ佇立していた。
知っている人間が死ぬことは、単純に悲しいことだった。胸が苦しくなった。だが、どこかその感情は皮相の経験でしかないようにも感じられ、悲しんでいる自分をどこか冷めた目で見ている感じは相変わらずで―――。
「あ! 見つけた!」
―――それは、どこかで聞いたことがある声の調子だった。声こそ全く異質だったのに、彼女のイントネーションを想
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