64話
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た。その度に、クレイは濁流に身を任せたくなる衝動と、それに抗する意思を堅持し続けた。それは分を弁えていないことなのだ、己にそういう甘えは許されないのだ―――。
何をしゃべったのか、クレイ自身もよくわからなくなった当たりで発話行為を止めた。昂進した息のせいで、感情のせいで、己の赴くままに喋ることが出来なくなったのである。
ぽつり、彼女が声を発する。びくりと身体を震わせたのは、次の言葉への偏屈な期待からだった。
「「異常」とは―――」エレアは、どこか芝居がかった風に畏まって声を出す。「所詮は多数者によって一方的恣意的に決定された意味に他ならなく、それは実在を表現する言葉などではない。本質的に「異常」である人間など存在していないのだ―――」
つっかえつっかえになりながら、エレアがその言葉を発する。
知っている言葉だった。その堅苦しい言い回しは、自分が何かの機会に書いた一文ではなかったか。
「クレイが最近何かの雑誌で書いた論文。『ニュータイプは「進化した人類」なのか?』っていうテーマだったっけ」
まぁ、それはいいんだけど、とエレアはどこか恥ずかしげな微笑を浮かべた。
もう、エレアは言葉を出すことを止めた。
言葉は人間にのみ許された感覚器官に他ならない。だが、感覚器官は一つの刺激を捉えることに特化しすぎ、世界を理解するのにはあまりに鋭く切り取りすぎる。
彼女は自分を赦すのだ。単純な感情論だけでなく、ご丁寧に襤褸のロジックまで添えて。
―――なんて間抜け。
理法は既に答えを得ているというのに、くだらない意地が目を曇らせていた―――。
声が漏れる。その嗚咽が情けなかった。だが、それでいいのだ―――とは素直に思えなかったけれど。
ただひたすらに、彼女の蠱惑的な肉の感触と彼女の器官の中に存在しているような体温が、クレイという存在を無条件に包括しているようだった。
クレイは新生児にように声を上げて泣いた。エレアの胸に抱かれて、彼女にしがみつく姿を赤子と言わずになんと言うか。
「クレイは自分を責めすぎるよ。だから―――」
私が赦してあげる。
彼女の声が外耳に触れ、鼓膜を愛撫する。エレアのそのあどけなくもどこか重さを持った言葉がそのまま脳髄の中へと浸透していく―――。
彼女が抱擁の力を抜き、クレイとの身体の癒着を引きはがしていく。
暗がりでも、エレアはいつもと変わらない邪気を感じさせない笑みを浮かべていた。その薄い蠱惑的な唇が微かに開き―――。
「じゃあ、エッチしようか」
表情一つ変えずにそんなことを言った。
「え…ええ!?」
「だってずっと固いままだよ? というか、さっきしたいって言ったじゃん」
それは、確かにそうだった。意識を向けるまでもなく、確かにクレイの実存は素直にエレアの股座の前で傲岸な
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