64話
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当たり前だが、消灯時間と言っても画一的に適用されるものではない。もちろん大部分の人間は、その一律の規定に従って微睡んでいる筈であるが、視界の向こうでは煌々とした人間の活動の影が燈っていた。
未だ格納庫の遍在するブロックには人口の光が灯っている。整備が日夜遅くまで続くのは試験装備を扱っている部隊が多いせいもあるのだろう。どれだけ性能が良かろうが、動作不良が多くては使い物にはならない。戦争に求められるのは有能なパイロットのみが使える兵器ではなく、万人が安心して使える兵器である。そして、それはすぐに壊れて直しづらい兵器ではなく、少しのメンテナンスで長く使え、壊れてもすぐに代えの利く兵器なのだ。だが、試験部隊が相手にするのはまさに前者なのである。試験兵器の完成のためには、テストパイロットの工夫だけでは完成しないのだ。それを現実に適応するのは整備士なのだ―――。
コロニーの中を巡る冷たく乾いた風が地面の中を這っていく。ニューエドワーズの気候のモチーフはテキサスのどこからしい。雪はあまり降らないように設定しているらしい、ということをなんとなく思い出したクレイは、眼前の舗装された道路をぴょこぴょこ歩く銀髪の少女の姿も漠然としか捉えていなかった。
顔が冷たい。冷たさが表情筋を固着させているようだ―――。
視神経を痙攣させる鈍い電流。既に輪郭を失い始めた黒髪の彼女の重たい幻影が後頭部の裏にべっとりと張り付く。
後ろめたさ。言ってしまえばその程度の言葉、だがそれもやはり違うのだろう。言葉はあまりに一面的すぎる。
軍靴が道路から崩れた屑を噛む。じょり、という濁った音が聴神経をざわつかせる。奥歯同士が噛み合い、不愉快さが神経を苛立たせる―――。
格納庫の区画を抜けていく。夜遅くということもあって、歩哨から時折訝るような視線を貰うのは仕様がないことだろう。
どこかの格納庫の裏手、土手のように土が盛り上がった場所で、エレアは歩き疲れたようにぺたんと腰を下ろした。
クレイは所在なく佇んでいたが、結局おずおずとエレアと少し距離を置いて地面に座った。カーゴパンツと草を介しても、土の感触はただ固かった。
エレアは特に何も言わず、ぱたぱたと足を動かすばかりだ。
クレイも何も言わず、俯いたままに息を殺した。
さわさわと角のある風が髪を揺らす。どこか取りつく島のない、雑然とした風。
視界の端で彼女が身動ぎする。こちらを微かに一瞥したらしい、と気づき、心臓がぐねぐねと不定に蠢動するのを感じた。誰かに責められている感覚。彼女の紅い瞳が、まざまざとクレイの姿を映している―――。
小さく掛け声1つ、柔らかそうなお尻をぱたぱたと叩いて塵を落とした銀髪の少女は、クレイのすぐ隣になんの思案も無く
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