63話
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の不意の戦闘に喜んだ。その戦い/殺し合いで、この少女はまるで子供に踏みつぶされる蟻のように、あっさりと〈間〉の存在から単一的個物へと流転した。意味などない。意味など付与しようがない。ただ目の前に現前している出来事は、全くもって不条理な現象であり、人間の限界を超えた出来事なのだ。それに、一体どうして言語的意味を付与し得ようか。
少女が熊のぬいぐるみを抱き上げる。
彼女は哭いた。ただ無力で、何もできない自分を責めるようにして―――。
※
ごつん。
額に感じた鈍痛で、フェニクスは目が覚めた。
既に消灯時間は過ぎていたが、自分の執務室には、未だに煌々と明かりが燈っている。部屋中に満ち満ちた無機的等質的な光が少しだけ気まり悪かった。
ひりひりとする頭を撫でる。後頭部の血管が詰まり、血液の靄が思考に立ち込めている。身を縮こめたまま全身に力を入れ、身体中でどろっとして停滞している血液を再び巡らせていく。それでも思考は漠としているし倦怠は身体にこびりついているが、業務に支障をきたすほどではない。
それにしても夢など―――オフィスチェアに寄りかかり、目頭を片手で摘まむようにして抑える。
既に14年前。多くの人はその出来事があったことすら、知りもしない。知っていても、ただの歴史的事実として了解されているだけだ。
忘却された歴史。未だ、フェニクス・カルナップの痕跡は一年戦争の記録の断片に刻まれたままである。
目頭から手を離し、脱力して天井を仰ぐ。
趙琳霞。あの存在が、きっと時間の彼方に埋もれた記憶を掘り起こさせた。
彼女の名前をぽつりと口にする。出会って数か月―――2か月。懇意にするほどに関わりを持ったわけでもない、ただあの時の記憶に触れた存在というだけの関わり合いと言ってもいい―――。
視線を、なんとなく彷徨わせる。やや広い執務室にはテーブルを挟んで小さめのソファが向かい合うスペースがある。チェアを引き、立ち上がったフェニクスはデスクを回り、鈍い身体を引き摺りながらソファの側へと寄った。そのままソファには座らず、端に置かれた黒い塊を手に取る。
その黒い塊の腋に手を入れ、腕を伸ばすようにして持ち上げる。プラスチックの、嫌にきらきらしたような目がフェニクスを見返してきた。
あの時の少女はどうしているだろうか―――言葉には出さず、タスマニアデビルのぬいぐるみに声をかける。
眼球の中の硝子体に輪郭を失った血塗れの少女と雪のような少女の幻影が重なり、フェニクスは咽喉を強張らせた。
業務に戻ろう。軍務中でないとはいえ、途中で寝るなど気が緩んでいる証拠だ。
凝り固まった首回りの筋肉を解きほぐすように首を回し、ぬいぐるみをソファに置こうとした時だった。
部屋のインターフォンが安っぽい電子音を鳴らした。
怪訝な顔
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