63話
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夢を、見ている。
彼女はあまり夢を見ない性質だが、この頭の中の視覚野を刺激する光景は確かに過去の出来事の反復だった。
空から降る冷たい白い塊。水が結晶化した、やわらかな冷然。
だが、彼女の視界が捉えているものはそんな些末な出来事ではない。
コロニーの中、深々と降りつもる雪を吹き飛ばしていく爆風。榴弾が炸裂し、マズルフラッシュの裂けるような閃光が迸り、巨人同士が鋼鉄の肉体を躍動させる。
18mほどもある巨躯―――白い外殻のMS-06FZがMS-06F2へと躍りかかり、灼熱の斧をその体躯に叩き付けた。
彼女は、走っていた。長くなり始めた髪を靡かせ、ただ只管に極寒の戦場を走っていた。
10代後半―――当時のジオン公国の状況であれば、彼女もまた徴兵されていた筈だった。だが、彼女は軍へは行かなかった。理由は、彼女が裕福な階級の出だったことに依る。
オリジナル11―――『ジオン』を単なる1サイドから、地球と戦えるほどにまで引き上げた伝説の11人。それらに及ばずとも、ジオン設立当初から建国に奔走していた系譜に連なる彼女は兵役を免除されたのだ。
高貴な出として育ち、己に誇りをもって生きてきた彼女にとって、それは拷問以外の何物でもなかった。
戦地で、戦い斃れていく同輩。
サイド3で、ただ鬱屈とその報告を聞く己。
単なる生まれというだけの原因。人は、ただ生まれた場所の違い、自分を産んだ人間の違いなどというあまりにもどうにもならない理由で、恣意的に強大な不平等を背に負わなければならない。そして、世界の人間はそのあまりにもわかりきった格差から目を逸らし、享楽に耽っているのである。
そんな彼女にとって、その『クーデター』は好機ですらあった。己の存在価値を、己の存在の重さを知るための機会。
家族の静止も振り切り、彼女はシェルターから抜け出した。
元々軍属として訓練していた彼女は、民間人の誘導などでもきちんと働けた。
あらかた主要な区画の避難民の誘導が終わっても、彼女は止まらなかった。まだ、助けを求めている人がいる。自分はそのために働く義務がある。そんな直感のまま、黒髪の彼女は人の少なくなった区画にも足を運んだ。
息が切れそうになる。雪地装備でも凍えるような場所で、彼女は四肢末端が凍死しそうになるのも構わず、ただ走り続けた。
鼓膜を破るような音。思わず身を竦ませ、あたりを見回した時だった。
ビル群の中から音を立てて巨人が飛び出してきた。
愚鈍そうな見た目の機体―――《ドム》。左手を破損した《ドム》がヒートサーベルを振りぬいた、その瞬間だった。
何かが視界を過った。対MS用の、相応サイズの手榴弾。
不味い、と思うより早く彼女は身を伏せるのと、その物体が爆裂したのは同時だった。
人間よりも巨大な『手榴
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