62話
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その複雑に絡まり合いながらも体系的に秩序だった存在は確かな重さを持っていた。視神経を伝ったイメージは、確かな実像となってその存在者が脳の視覚野に投影する―――。
「とうきょうたわー」
会心の笑みだ。
トウキョウタワー―――大分前に日本に在った電波塔だったか。建築から数十年、老朽化から解体されて久しい。日本のこの世には存在しないが。とかく、これは東京タワーを模したものなのだろう。
「凄いね」素直に感嘆した。
「モニカに教わったんだー」
えへへ、と頬を緩ませると、作った塔をすぐに解体してしまう。
ぐしゃ、と潰される―――その光景が、何故かとても綺麗だった。
なんとなく抱いた感情に奇妙な揺籃の感覚を覚える。頭の中で生じたその『ズレ』がどこかで引っかかる―――それを振り払うように「モニカさんが?」とクレイは声を出した。
サナリィから出向している少女。素直そうな彼女が、無心で今の糸繰をしている―――なるほど似合っていると思ったのは、気のせいではないだろう―――。
「ね、クレイ」
彼女の声が耳朶に触れた。撫でるようなその感触に、クレイはたじろぎながら、なに、と応えた。
彼女の笑みは、丸かった。角が取れて、当たっても柔らかく抱きかかえてくれるような、そんなアルカイックスマイル。阿弥陀如来のような、どこか底抜けでありながら触れられそうな、笑み。
知らない、と思った。こんな笑みは知らない。
嘘。
知っている、のだ。己の過去経験の中で、確かにクレイはこの笑みに出会っている―――。
「散歩、しようよ」
彼女は、そんな言葉を口にした。
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