62話
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うしている―――。
足が重い。身体が怠い。視床下部から出てきたどろっとした何かが、身体を気怠くさせている。液化した鉛が末端で冷え固まっているようだ―――。
途中壁に寄りかかり息をつく。壁に触れれば、痺れた手の感覚はあまりよくわからなかった。
よたよたと階段を上がり、自室へ。
ドアの前に立つ。灰色で新品のドアだ―――。
何故か、一気に脱力した。安堵―――ほっとした、といっていい。心身の弛緩が毛細血管までぎっちりと詰まった鉛を溶解させ、液体が流れ始めた四肢の末端は痛いくらいだった。
明日だ、明日の朝、彼女のもとに行こう。頭の中からふと出てきた考えにずきりと身体のどこかが痛み、呻きながらもタッチパネルに触れる。
瞬間、ロックがかかっていなかったドアは嫌に素早く開いた。
心臓が跳ねた。咽喉が窮屈に軋み、眩暈が視神経を突き抜けて前頭葉をずぶりと突き刺す。
誰かいる。
誰が居る?
爪が手のひらの肉を引きちぎるぐらいに握りしめ、全ての想念を突っぱねた。恐ろしかった。
誰もいないことだって、ある。最近はよくロックをかけるのを忘れてしまうことが多いと、誰かも言っていた。
恐る恐る部屋に入る。入口付近の壁に埋め込まれたタッチパネルに手を触れると、LEDの光が部屋中の闇を隅々まで駆逐していった。
目がくらんだのは明反応だけのせいではなかった。
床には黒々した軍靴が脱ぎ散らかっていた。紐をしっちゃかめっちゃかに緩み、左足の重々しい軍靴が身を横たえていた。机の上には、開いたままの分厚く紙が黄ばんだ本が広がっていた。
その他には、目立ったものは存在しなかった。ただ、ベッドの上に何かが寝転がっていた。
白光を受け銀色を反射させた小さな塊。SDUを着たまま、すやすやと寝息を立てる彼女は、律儀にジャケットのファスナーをぴったりと閉めていた。
「エレア―――」
思わず名前を口にする。安堵と緊張がぐちゃぐちゃに混ざり合い、クレイは所在なく足踏みした。
頭がごちゃごちゃする。どうして彼女がここに居る。いや、おかしくはないのだが。
心臓が早計を鳴らす。何を考えればいいのかがわからない―――鼻孔の奥にじっとりとたまる彼女の重さを伴った甘い匂いがそのまま嗅覚神経を這いまわって頭にでも広がっていくようで―――。
くぅくぅと寝息を立てる少女。抱っこしようと思えば腕の中にすっぽり収まってしまいそうなほどに小さい。
息を飲む。肉、という言葉が頭に浮かび、眉間に幾条かの皺を寄せて目を瞑った。
咽喉が焼ける。頭に渦を巻いた幾多のしこりが脳血管につまり、血管が瘤を作って白い血をぶちまけそうになる―――。
背を向けていた彼女が寝返りを打つ。
彼女の白いかんばせがこちらを向いた。いつも通りの彼女の表情に眩暈を覚え、視線を
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