60話
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とその手が言う。プルート・シュティルナーは一度とて母親の存在を感じたことは無かった。彼女たちにとって、母親とは遺伝的な意味でしか存在の実感がないものだった。
それでも、もし母親というものが彼女たちとって肉体を伴った実感として存在したのなら、きっとこんな風なのだろう―――。
大丈夫? うん、ありがとう。どうたしまして。それだけ言葉を交わした。
「そういえばさぁ」温かな闇の中で響いたエイリィの声は、いつも通りの声色だった。「あの人とはどうなったのさ?」
「ほら、なんか死亡フラグ立ててたっていう彼。順調なの?」
「あぁ、あれ―――」
ぎゅっとエイリィの身体を抱きしめながら、プルートは言葉を飲んだ。
あの《ザクV》のパイロットとは、微妙な関係になっていた。実戦後にプルート自身が1週間ほど昏睡していて碌に合ってもいなかったし、それに今は変に知らない人と懇意になるのが疎ましかった。別に悪い人では、ないのだ。昏睡している間ずっと見舞いに来ていたらしいし、気さくに話しかけてもくれる。プルートも嫌いだとは思わなかったし、好意を向けられるのは嬉しいことではあるけれど。
だが、それだけのことである。好意が嬉しいからといって、自分も好意を抱く必然性はどこにもない。
沈黙だけで、エイリィはおおよそ理解したのだろう。ははぁ、と慮るような溜息を吐いていた。
「プルートは誰か好きになった人とか、いないの?」エイリィがそう言ったのは、なんだかまた眠気が頭の中に霞がかってきたときだった。
「む―――隊長は好きだよ」
「いやそういうんじゃなくて―――ってプルートはおぢさんが好きなの?」
闇夜の中でエイリィが目を丸くする。冗談だよ、と言いながら、プルートは拍動が少しだけ早くなっているのを知覚した。
所謂恋愛感情など、と思う。そもそも戦闘用にデザインされている彼女たちにとって、そのような感情は生じ得ない筈だったのだ―――つい、この間までは。
エイリィと一緒に居ると、ドキドキする。あの同僚のことを思っても、今はうんともすんとも感じない。あの男のことは―――。
エイリィの胸に顔を押し付けた。脂肪だとか乳腺だとか、あるいは夢や希望が詰まっているであろうその2つの塊はとても柔らかかった。
胸がデカいだけでアドバンテージなんて、機会の平等に反していると思う。リベラルの人たちには、胸囲の格差社会を是正する方法を考えて欲しい。ロールズは乳房論とか書いていないのだろうか。書いているわけが無いか。
あの子だってデカかったし。150cmあるかないかであのメロンは反則だ、と思う。
「さぁな」むすっとした声で言った。
「そうか」プルートの髪の毛を指で絡めとる。「それは良いことだよ」
プルートは、そのエイリィの声色にちょっと驚いた。こういう時はからか
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