58話
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しろ、それ故に優秀さを感じさせるのだ。秘書として、フロンタルは安心できる存在であることは論を待たない。
「連邦の弱体化のための駒、ですか」
「共に戦う同志―――とも、言える。物は言いようだ。それに、事実我々は彼らの供与が無ければ《クシャトリヤ》も《スタイン》の強化外装も開発は出来なかった。アナハイムも設計図を形にするほど余裕はないのだろうな。もちろん我々も、だ」
む、と眉間に皺を寄せる。
使者を名乗ってパラオに訪れた男を思い出す。金持ちを嵩にかけたような、尊大な男だった。思い出しただけでも業腹だったが、それはそれだろう。
そうしている間に、隔壁の前に着く。壁際のセキュリティ装置のタッチパネルに触れてパスワードを入力し、指紋を認証。
認証完了の音とともに、見るからに重たそうな隔壁がゆっくりと左右にスライドしていく。
MSの格納庫だった。さほど高度なセキュリティロックではないのは、向こうから聞こえてくる騒がしい音で納得だ。その都度、2桁を優に上回る暗証番号と何重もの生体認証を要求されては利便性に欠ける。そして、それほど絶対的な秘匿を必要とするわけでもないのだ。
ガントリーではなく、トレーラーに寝かされる形で横たわる灰色のMS。第一次ネオ・ジオン抗争にかけて誕生した『恐竜的』とも呼べるMSとは異なり、マッシヴながらもすらりとした四肢は、第4世代機の到達点であり、かつてのネオ・ジオンの旗印だった《サザビー》とは正反対の印象を受ける。不必要な重武装はただの金食い虫、というわけだ。フル・フロンタルが《サザビー》を捨て置いた理由の1つにはそういう点もあるのだろう。
一部分、仮に装備された赤い装甲が目に入る。地球連邦軍の機体設計を思わせる直線的なデザインラインの中で、曲線的な装甲の腕部と頭部はその色も相まって目を引く。マス・プロダクツな硬さとは一線を画するその曲面の装甲は、MSというよりかは中世の気品高い貴族のイメージをそのままMS大にまで拡充させたようでもある。頭部のカメラアイはマスクされており、その奥に潜む単眼―――そしてその最奥に永遠に眠るデュアルカメラは窺い知れない。
「彼らもまだ歴史の表舞台に出る気はないのだろう。だから我々に頼る」
キャットウォークからやや身を乗り出すようにして、フロンタルは眼下に静かに眠るMSを見下ろした。その背中は、やはり何の感慨も感じられなかった。己の愛機であろうと、この男にとって眼下の機体は道具の範囲を出ないのだろう―――。
「また、ですか?」
「だ、そうだ。今度は―――」
格納庫で派手な音が響く。フロンタルの声は、甲高い金属音の中に融けていった。
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