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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
58話
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。わぁ、とエレアは目を輝かせて、己の手に現出した東京タワーとかいうコンストラクチャーとモニカの笑みを見比べた。
 魔法みたいだった。所詮一本のケーブルで作った輪っかでしかないそれがみるみると手の中で形而上学的存在を憑依させ、現実世界に具現していく。一見出鱈目に絡まっているように見えて、精妙な秩序のもと絡まり、その形を把持し続ける。
 モニカがエレアに重ねていた手を離すと、するすると形を失ったケーブルは疲れたようにだらりと手の中で溜息を吐いていた。
「これなんていうの?」
「アヤトリというんですよ。日本(ジャパン)の昔ながらの遊びだそうです。疲れた時の頭の体操によくやるんですよ」
 気恥ずかしそうにしたモニカは、エレアの隣に腰掛けたまま、再び指にケーブルを操り始める。
 2分ほどした後、モニカが「蟹〜」と言いながら両手を持ち上げた。
「うーん、十脚目異尾下目?」
「まぁまぁ……」
 蟹かどうかはよくわからなかったが、綺麗であることには変わりなかった。
「わたしもできるかな?」
「そんなに難しくはありませんから大丈夫ですよ―――じゃああと一本くらい適当なケーブル取ってきますから、ちょっと待っててください」
 はーい、と肯くと、立ち上がったモニカがぱたぱたとどこかへ駆けて行った。
                    ※
「―――それでは彼らに?」
 そうだ、と返す金髪の男―――フル・フロンタルの声に、ゴティは顔を顰めた。
 かつんかつんと通路に音が響く。電力の節約とかで、お世辞で言えばなんとか明るいくらいの通路を歩くフル・フロンタルの姿はそれでも威圧的だった。
 正確には、その豊かな金髪の髪に真紅のやや硬さを感じさせる礼装、そしてその額に装着したマスクが醸し出す、奇妙な圧迫感。恣意的に発せられるのではなく、フル・フロンタルという存在から流出した本性がその周囲の人間の認識に作用するのだ。決して、ネオ・ジオンの総帥という肩書だけではその存在の力場は生じ得ない。慣れたとはいえ、我知らず緊張するのをゴティは感じた。
「確かに貴重な戦力が損なわれるのは今の我々には惜しい。中尉の技量も、《スタイン》に乗っていればわかる―――《スタイン》はどこの角も無く調整されている。シューフィッターとしての技量を見れば、その本質は推して知るべしだ。大尉も同じだ。だが、今我々にはクルス准尉がいる。それに、彼らとて見返り無し我々と懇意にしているわけではあるまい?」
 誠意が必要なのさ、とフロンタルが一瞥をくれる。
 まるで彫刻だ―――。ただ、古代ギリシャをモチーフにした芸術品と異なるとすれば、芸術品が生命の躍動感への飽くなき追求を感じさせるのに対し、ゴティの隣にいる男はむしろ物理的静止を如何に表象するかに技巧を凝らした物であるという点であろう。
 む
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