57話
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してあの瞬間に感じた情欲。
自分は生きているという事実、そしてそれに対する無邪気なまでの感動と安堵。
右手を握りしめた。爪が食い込み、そのまま皮膚を破ろうというくらいに握りしめ、ぱきぱきと音が、鳴った。
目から冷たい液が垂れた。そうして視界が白くなるくらい強く目を瞑り、机に肘をついてでこを机の角っこに押し付けた。
軍で執り行われた葬儀の折、クレイは1滴も涙を流さなかった。その癖、今になって、自分のことで涙を流している己の存在が醜悪なものにしか思えなかった。
自分の醜悪は今に始まったことではない。自分は上に行こう、善い人になろう、と決めたかつての頃から、クレイは己が如何に愚劣さで醜い存在であるかを思い知ってきた。そしてそれを克服しようとして、我武者羅に努力して。
そして、その様が今である。
結局、何も変わっていない。良い子ちゃんの仮面を被っているだけの哀れな存在。化けの皮を剥がせば、その内は醜鬼の顔が覗いているのだろう―――。
嗚咽が漏れそうになるのをかみ殺し、クレイは無様に音を立てて存在していた。
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