57話
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
態が極度に不安定になり、さらには薬物使用の反動に魘され、2週間ほどの時間を半狂乱状態のまま医務室で過ごしたクレイに対して、アヤネはいつも通りだった。
変に気遣えば、それだけ傷つけることもある。だからアヤネはいつも通りに振る舞うのだろう。アヤネだけでなく、ほかの部隊の人々もそうだった。どこかやつれ気味になりながらも、攸人もまた優しかった。エレアとは、2人きりではまだ喋っていなかったが、デブリーフィングの時はいつも通りに話しかけてくれていた。
優しすぎるのである。そしてその優しさが有難く、そして屈辱だった。他に対する屈辱ではなく、そうして気遣いを受けねばならないほどに無能な己の欠落さが屈辱だった。
「はい、飲む?」
アヤネがパックに入った飲み物をひらひらと見せた。
強化オレンジジュース。どろどろとした舌触りで粘つくような感触のそれは、味こそ最悪だがシミュレーター直後の身体には適した飲み物だった。
「ありがとうございます」
「クソ不味いけどね」
悪戯っぽくアヤネが口角を上げる。なんとか笑い顔を作り、受け取ろうと手を伸ばした時、微かにアヤネの指先が触れた。ちょっと指の背に触れただけだったが、その瞬間クレイは空っぽの胃の中に、どろりと肺魚が身を落として這いまわるような感触を味わった。胃に穴をあけ、その中をくねくねと動き回る―――。
肺魚が1度、大きく跳ねる。フラッシュバックする背徳的快楽の感じ。
肺魚が1度、大きく跳ねる。フラッシュバックする己が死への幼児的なまでの恐怖。
肺魚が1度、大きく跳ねる。レーダーから消える2つの味方機の光点。
もう一度跳ねた肺魚が咽喉元までせり上がり、口から茶色の細長い魚が飛び出しかけたが寸前で止めた。嘔吐感など露ほども見せずに強化オレンジジュースを受け取ると、ノーマルスーツを脱ぐためにロッカーへと向かった。
そうしてシャワーへ。故障でもしたのか一向に熱くならないシャワーを呆然と浴び、いつも通り念入りに髪を乾かす。一目散に、あるいは一瞬腐乱に自室に戻る。
気が付けば、部屋の前に居た。そして相変わらずタッチパネルに手を伸ばしかけたところでドアがスライドし、一瞬たじろいだが、部屋の中には誰もいなかった。
またロックのし忘れか―――呆れながら部屋の電気をつけようと室内のタッチパネルに手を伸ばそうとしたとき、ベッドの脇に置かれたゴミ箱が目に入った。
黒いプラスチックのごみ箱である。ビニール袋をかぶせられたその高さ50cmほどで木製を模した薄茶色の取っ手のあるゴミ箱は、まだまだ容量に余裕があるらしい。
そのゴミ箱の横―――タッチパネルに触れ、LEDの軽い光がさっと部屋中に溢れ、その物体を鮮明に照らし出した。
丸まったティッシュだった。クレイの体内から排出され、無残に目的を果たせずに打ち
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ