54話
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人間の分化した感覚とは、実は完璧に分化しきっているわけではないと言われている。
共感覚者、というのは実はその実証データなのかもしれない。目で音を聞き、舌で物を見る。耳で匂いを嗅ぎ、鼻で触れ、肌で味わう。あるいは目で音を聞きものを見て匂いを嗅ぎ触れ味を知るような、全ての感覚が混然一体となった場合もあろう。
エレア・フランドールは、まさに今混沌と化した感覚知覚のもとに生きていた。それによって強化された彼女の能力は確かに『サイコ・インテグラル』の想定される性能の1つだ。人為的に全共感覚状態を発生させることで、本来的なニュータイプ能力の増強あるいはニュータイプでない人間を擬似的にニュータイプの能力を付与する―――だが、それはサイコ・インテグラルの性能の1側面でしかなかった。
未来時間へと、絶対空無へと先駆し、過去を反復する。あらゆる時間を統合し、世界を解体し、その地平に広がる己の環世界へと大地へと超越した彼女存在は、だから眼前の敵とは異なる敵の攻撃を、時間と身体感覚の境界線が融解した始原なるそれ、つまりはその全一的感覚の中で正確に捉えていた。
※
漆黒の《ゼータプラス》へと無数の光軸が殺到する。その光の柱の中へ、蒼い燐光をゆらめかせた敵は跡形も無く飲み込まれていった。
(隊長!)
ディスプレイが立ち上がる。プルート・シュティルナーの困惑した顔がウィンドウに投影されていた。《ドーベン・ウルフ》と《ザクV》の長距離からの狙撃―――第4世代機の名に相応しいその大火力が、あの黒い《ゼータプラス》を葬ったのだ。
撃墜した―――幾許か、苦いものが臓腑からせり上がってくる。
作戦の目標はあくまで「あれ」の撃破ではなかったのだ。仕方ないとはいえ、失敗であることに変わりはない。
いや、今は安堵を覚えることにするべきだろう。あの恐ろしい敵を前に、最悪撃墜しても良いという許可はとってある―――。
プルートの怯えたような声が耳朶を打つ。
マクスウェルは、その光景に息を飲んだ。
常闇に揺らめく蒼い炎。それを護るように青白い光が幾何学的な模様を描く―――。
4基のフィンファンネルを起点として展開されたビームバリアー。まさに聖域だった。それより先は何人も触れることが許されぬ絶対領域の中で、悠然と佇む《ゼータプラス》。蒼き熾火を迸らせ、燃え盛る刃を携えた異形が冷然とマクスウェルを睥睨する。可変したならば主翼の役目を果たすバインダーは、それこそ天使が翼を畳んでいるようにも見えた。あるいは、天使が神の使命を帯び、まさに人間に神罰を加えんと静かに佇む―――そのように、《ゼータプラス》が黒い宇宙に漂っていた。
悲鳴にも似たプルートの絶叫と共に《ドーベン・ウルフ》がその腹のビーム砲から吐き出す。《ドーベン・ウル
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