54話
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ウェルの姿を確認する余裕すらなく、あの敵と矛を交えているマクスウェルと早く合流せねばという小さな焦りを意識した、その刹那。
エイリィの肌をざわざわと何かが舐めた。全身を蛞蝓が這いまわり、不躾な他者が己の存在を無理やり犯してくるような異様な不快感。身体中の毛孔が喘ぐように開き、悲鳴をあげた汗腺が嘔吐するように冷たい汗を吐き出す。
―――あぁこのプレッシャーも彼女は感じているのだろう。弱くて強いあの子、あの子のところに行かなければ。悪寒に駆られながら、エイリィは、《ゼータプラス》が逆袈裟に掬い上げるようにビームサーベルを振る挙動から、咄嗟に世界から判断を切り出した。
差し迫る《ゼータプラス》の青白い光の刃を、エイリィは躱さなかった。弧を描いた粒子束はそのまま《リゲルグ》の左腕を肩口から切り裂き、オールビューモニターの左側面をビーム光が埋めつくす。
焼けるような錯覚すら感じながらも、身を竦ませることすらしなかったエイリィは《ゼータプラス》が剣を振りぬくと同時に、スラスターを逆噴射させた。飛びのくように後退しながら、己の愛機の引きちぎられた腕目掛けてアサルトライフルにアンダーバレル式に装備された榴弾の砲撃を撃ち込んだ。
巨大なブースターユニットでもある《リゲルグ》の肩は未だに大量の推進剤を鱈腹抱えている。榴弾が肩に直撃し、膨れた爆発が推進剤に誘爆。そのまま左腕に握ったままの榴弾にも誘爆し、MSの一部分のそれとは思えないほどの閃光が膨れ上がった。
恒星が誕生したかのような赤黒い炎が球の形をとる。堅牢な構造物であるMSすらも屠るほどの爆発だった。
この不意打ちならばあるいは。そんなエイリィの思考は、その2秒後に裏切られた。
赫赫とした火球の中から飛び出す灰色の《ゼータプラス》。傷一つなく、ぎらつく真紅の瞳がエイリィを睨みつけた。
「―――あ、これアカン奴だ」
スラスターを迸らせ、灰色の《ゼータプラス》が痛い程に青いビームサーベルを発振させた。
※
プルシリーズと呼ばれる一連の計画の中で生み出されながらもパイロットの能力として欠落のあった『彼女たち』は、十数人の姉妹たちとは異なった任務に就かされることとなった。だが、ニュータイプとしての能力は高水準に達する。達するが故に、彼女はあの敵の発する“圧”を感じ取っていた。
さわさわと吹いた風がプルートの頬を撫でる。真空の宇宙空間に風が吹く道理はない。ましてヘルメットを被っている、生体維持機能によってコクピットに満ちた空気が撫でつけたというのでもない。
物理的作用を伴った時間が津波のようにプルートに押し寄せ、彼女の目鼻口肛門膣身体中の孔からどろどろと流れ込んでくる。
犯されている。圧倒的な原初的全一存在がプルート・シュティルナーという分離してしまった存在を統合
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