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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
53話
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 ECOSにとってこの茨の園への侵入が容易かったのは、何も敵が組み易い相手だからというわけではなく、一重にアナハイム・エレクトロニクス社から秘密裏に供与された当施設の詳細な情報があったからだ。
 彼らは何故アナハイム・エレクトロニクス社がECOSを動かしたのか、その意図など知る由も無かったし知ろうとも思わなかった。ただ、与えられた任務を遂行するために、眼前で動く生命体と、仕掛けられたトラップを完璧に処理していく。
 例外は、902部隊第1小隊第5班の面々だった。
 目標の敵施設に侵入し、着々と仕事を進める彼らは他の面々が施設の制圧に動いているのに対し、コロニー層構造へと降下していった。
 本来であれば高度なセキュリティで保護されている筈で、そうであればECOSと言えども侵入はあきらめたであろう。もちろんアナハイムから関係者を引っ張ってくればいいが、素人の引率をしながら戦闘行為が出来るほど、彼らは流麗ではなかった。
 だがそんな心配も栓のないことである。
 最後と思われる破壊された隔壁を通過し、十数mほど進んだ時だった。
 狭かった視界が一気に広がる。
 班長の准尉は、普段ならしないであろうちょっとした油断をした。アサルトライフルを抱えた腕をおろし、警戒しながら歩を進めていく。
 入口が設置されているのは2階部分にあたるのだろう。キャットウォークを伝い、向こうの壁には破壊されたエレベーターの残骸がある。
 拉げた手すりに手をかける。
 ほとんど使い物にならないであろう格納庫―――『実験場』として使われていた時は、恐らく試験兵器がずらりと肩を並べていたに違いない。だが今はその影も形も無く。ただ1機だけのMSが蹲っているだけだった。
 ワインレッドの装甲。大きさは20mのMSと比しても巨大な筈の威容は、やや離れた准尉の位置からもありありと感じ取ることが出来た。
 滅茶苦茶に殴打されたであろう頭部はもう使い物にならないのだろう。首元からだらしなく動力パイプを覗かせ、左腕は肱から先が切断されていた。腹部のビーム砲もどろどろに融解しており、堅牢美麗であったその外装も、ほとんどが拉げては塗装が剥げており、MSに明るくない准尉が見ても、明らかに鉄くずでしかないと判断できた。ただ他の人と判断に異相があるならば、それが世界一高価な鉄くずだと思っている点だ。
 アナハイムが何を思ってこれを回収したのか―――准尉は、政治に傾いた思考を戻した。
ただわかることは、この機体は後々の歴史に鮮烈な痕跡を刻むだろう、ということである。―――歴史の立会人。その威圧的な姿に素に戻っていた准尉は、ぶると身を震わせた。
 今は任務中だというのに―――気まずさ半分、ロマンチストな感傷を抱く自分に照れ半分。まだこんな感情を抱けるのだなと己の心の動きに苦笑いした准尉は、ヘル
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