暁 〜小説投稿サイト〜
機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
49話
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。この世界は狂ってるんですよ)
 男の声は憤懣に満ち満ちていた。
 誰しもが抱く不正への怒り。それを、彼は感じているのだろう。
 プルート・シュティルナーの肉体年齢は16歳だ。実際の年齢はもっと若い。そんな子どもがMSなどというシステマチックな殺戮兵器を使って殺し合いを演じている―――苦く思わない大人は、軍人は、きっと居ない。
「少尉、一ついい?」
 無言が肯定なのだろう。肯きを幻視したプルートは、なるべく平静の声色のままにした。
「狂気とか異常って言葉は、目の前の出来事を直視したくない人がフィルター越しに物を見る時に使うタームだよ。あんまり、気分のいい言葉じゃないよ」
(すみません―――)
「いいよ。あたしも偉そう」
 自嘲気味に苦笑いをする。通信越しの男も、苦い微笑を浮かべているらしかった。
(シュティルナー少尉、最後にもう1ついいですか?)
「なに?」
 また、間があった。でもそれは重力を伴った鬱としたものではなく、どこか無重力のふわふわに似ていて―――。
(そのですね―――この戦闘が終わったら、その―――食事にでも行きませんか)
 やっとこさ男が出した声は、そんなものだった。もちろんその言語行為を単なる文意味でしか理解できないほど、プルートは魯鈍な精神の持ち主ではなかった。
 思わず、隣接する《ザクV》をモニター越しに見た。
「そういう意味?」
 一応、プルートは聞き返した。
 はい、と応えた男の声は、多少上ずっていた。
(パラオで見かけたときからその―――あれでして―――)
 中々煮え切らない男である。呆れにも似た微笑を浮かべたプルートは、いいよ、と声を出した。
 確かに、朧気に見える男の感情は歓喜の色に染まったように見えた。
「でもまずここを生き延びてから。今回は結構きつい相手がいるから」
 はい、と張りのある声が返ってくる。わかっているのかわかっていないのか―――幾許か不安を感じていると、そんなプルートの心の内など露ほども知らない男は《ザクV》の接触を離した。緑色の《ザクV》が心なしか嬉しそうに見えるのは、気のせいではないだろう。
 視線を闇に移す。
 プルートは、胸がどきどきするのを確かに感じた。こういう躍動的な感情に直面したのは、3度目―――だ。
 1度目はエイリィに身体(からだ)を求められて、そして実際にエイリィに抱かれた時だった。彼女のしなやかな手つきは、生物的雌として成熟しつつある彼女を悦楽で水浸しにさせた。
 3度目は今である。もっと純情な初心が、そのストレートな恋心に戸惑い、そして純粋に嬉しかった。
 2度目―――思い出して、プルートは顔を歪めた。
 もうどれくらい前だっただろう。プルート・シュティルナーがエルシー・プリムローズ・フィッツジェラルドとして活動していた時。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ