暁 〜小説投稿サイト〜
機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
48話
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
タリンクで共有されるバイタルデータを見て、ほかの人間に聞こえないように―――という彼女の心配り。音声だけでも伝わるジゼルの柔らかな声が何よりの証拠だった。
 単に感情が昂進しているだけだ―――クレイは、ごくりと咽喉を鳴らした。人間の身体の作りの全ての解明は、人類は未だに行えていないのだ。思考の中枢が果たして脳みそなのか、それとも消化器官にあるのかすら未だに議論されているのだ。吊り橋効果もどきのようなことが、原因帰属の錯誤が生じているに過ぎないのだ―――。そう、思うようにした。
 心臓の拍動が少しだけ収まったような気がした。
(本当に大丈夫なわけ?)
 多目的ディスプレイに投影された琳霞のウィンドウがフォーカスされる。挑むような顔に冗談を滲ませた顔立ちだった。
(あんたの任務はN-B.R.Dの試験でしょう? だったらその玩具を持って帰るのも任務よ)
「了解しています。いざとなったら逃げますよ」
 クレイは務めて平静に応えた。というより、少しだけ気分が落ち着いていた。
 やはり気のせいなのだ―――心の片隅に引っかかる懸念を無視し、所詮は錯誤と断じたクレイは、むしろ今の自分の成果にだけ目を向けるようにした。
 アシスト込みで2機撃破。初陣にしては出来すぎなくらいの戦果だ。N-B.R.Dも、現状のスペックをフルに発揮しているといっていい。細かいデータの精査は帰ってからになるだろうが、試験武装としては十分な性能だろう。それこそ今すぐにでも正式配備に―――というと、ちょっと大げさだろうなぁ―――。
 色々思案を巡らす。そうする余裕があるほどに、クレイたちが居るのは前線ではなかった。
(予定時刻まではまだあるか。あと少しでスケジュールは消化だ)
 クセノフォンの声に威勢よく了解の声を返す。
 あと少し。あと少しで、クレイは生きて帰れるのだ。
 23歳の男が無邪気を装った安堵を抱いた、その瞬間だった。
 クレイたちが展開する左翼の反対―――右翼の方の戦闘区域に、暴力的な閃光が奔った。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ