46話
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な笑みを思い浮かべた。
「家族想いな女性なのだがな―――」
「はい?」
大尉は、ぽかんとした顔でケネスを見返した。
「ご子息のことだ。今年ニューエドワーズの教導隊にご入隊されたと聞かなかったか?」
はて、と大尉は首を傾げた。実務に真面目な男だが、仕事に集中しすぎるあまりそれ以外のことにはとんと気を配らない男でもあった。悪い男ではないのだが―――。
「ニューエドワーズに居らっしゃるのならお会いにならないのでしょうか。教導隊にお入りになるほどの技量です、中佐も鼻が高いでしょうに」
「厳しく、そうして放任主義的な人だからな―――直接はお会いしないのだろう。時折メールのやり取りはしているようだが」
中佐らしいですね、と大尉は笑みを浮かべた。その点は、確かに同意したい。元ティターンズテストパイロットを務めた彼女は厳しい女性だ。その息子もまた、親と同じく高邁な心の持ち主なのだろう―――。
ケネスは、何か不安を感じた。得体のしれない奇妙な間歇。美しく気品高い日本の和紙に、廉価な墨汁が愚かしく垂れていくような―――。
「少佐?」
図体のデカい男が伺うように身を屈めた。「いや」ケネスは首を微かに横に振った。「少し考え事だ」
はぁ、と男が目を細める。大尉の視線を受け流したケネスは、結局自分が感じたズレがなんなのかを理解することは無かった。
それに、そもそもケネス・スレッグという男にとって重要な事柄でもなかったのである。金髪をオールバックにする峻厳な顔立ちの男は、10秒後には、己の任務たる《ゴットフリート》の調律という、誇り高い仕事を峩々と志向していた。元々、彼はMSに乗りたいからという単純な理由でテストパイロットになった男である。そう言った意味では、ケネスはみさきの志望動機理由を気に入っていた。
もし妻がおらず、もっと若くて、みさきが白人でブロンドだったらいいのに。サンチマンタルなど露ほども理解していない運命の神とやらに、いちゃもんをつけたくもなるが、ケネスは気にしないことにした。そもそも彼は無神論者である。神も神で、そんな人間から文句を言われても困惑するだけであろう。
「――――――テストだけに専念できればいいのだが」
《ゴッドフリート》を仰ぎ見る。フットボーラーさながらにゴツイ身体にヘッドバイザーを付けた《ゴッドフリート》は、そんなことを俺に言うなと呆れと同情を滲ませた視線をどこかに投げていた。
ラプラスの魔がどこかに居るのかは知ったこっちゃないが、少なからずこのユニバーサルセンチュリーに存在する神は運命に細工をするのが趣味らしい。
ケネス・スレッグ少佐は不愉快な気分になりながら、格納庫を後にした。
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