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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
46話
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ただ、世界はペルソナを被ったのだ。
重工業が極めて発達し、それほど損害を受けていないサイド3は、戦争で荒廃した地球圏の復興に必要不可欠だった。だから、無視されたわけではなかった。だからサイド3は、戦争を起こした国としての義務感から戦後復興に出し惜しみなどなかったし、地球圏はそれを歓迎した。
 いつだっただろう―――とにかく、彼女たちは何かのボランティア活動のため、1年間地球に降りたことがあった。彼女にしてみればそれは当然の行為で、義務感以前の問題だった。
 その時だった。?い子どもに、石をぶつけられたのだ。その子どもは何も言わず、かといって憎悪に満たされているわけでなく、ただ歴史のペルソナを顔につけて、彼女に石の礫を投げたのだ。そして、その仮面の罅割れた部分から、不気味に蠕動しながらも安らっている大地の、静かな、捉えがたい囁きが漏れる音を、聞いたのだった。
 彼女が軍人になろう、と思ったのは、その出来事があったから、かもしれない。正義の味方になりたいな、なんて眩しくて濁った思いを持ちながら、自分の父親が、何を見ていたのかを見てみたいな、と思ったのだ。
 彼女はまだ、声を聞いていない。一年戦争が終結して、その度に彼女の耳には不愉快で大音量なナショナル的雑音が響いていたからだった。
 そうじゃないのだ。もっと、囁くような声が聴きたいのだ。歴史の根底で汚泥のようにやすらいながら、地球内部のように蠢いている大地の声を、聴きたいのだ―――。
 だって、正義の味方はそうやってきこえないこえをきくひとなんだから。
                    ※
「国防軍の趙琳霞中尉です」
 ドアの向こうから聞こえたその名前に、フェニクスはどこかうんざりするものを感じた。何もチョウ・リンファと名乗った相手へ、ではなく、サイド3からの訪問者たちへの食傷である。フェニクスはリンファという女性に会ったことも無かったから、心の中に微かに浮かんだ倦んだ感情をすぐに退け、入出許可を出した。
 アルミのドアノブを回し、フェニクスの上級士官向け執務室に入ったセミロングの黒髪を、金のリボンで2房に纏めた女性だった。
「第112中隊の趙琳霞中尉です!」
 どこか緊張したように敬礼する―――あぁ、とフェニクスは彼女を思い出した。自分の部隊の直援をする部隊の小隊長ではないか。しかもサイド3からの付き合いだ―――中隊長とは何度も会話を交わしたが、他部隊の小隊長とそこまで深いかかわりを持つことは無い。
「特務戦技教導試験隊のフェニクス・カルナップ大尉だ。国防軍の連中は暇人のようだな?」
 返礼をしつつ、フェニクスは務めて砕けた調子で冗談を言った。時折サイド3出身者の人間が面会に来るが、琳霞もそうした人たちの中の1例だった。つと身体を強張らせた琳霞は、しかしフェニクスの予想と異
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