45話
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早朝の食堂は閑散としていた。数百人規模を収容する食堂も、昼ともなれば満杯に人が収容されるのだが―――。山盛りになったパンケーキに、純白のクリームを聳えるその異様な食べ物をトレーの上に乗せて手近な席に腰を下ろした。水を持ってくるのを、席に着いてから思い出したクレイが腰を上げようとすると、視界の脇からにゅっと腕が伸びた。ことん、と音を立て、水の張ったグラスがクレイの前に置かれた。
「忘れ物」
攸人はいつも通りの人当たりの良さそうな笑みを浮かべていた。感謝しながら水を受け取ると、クレイの右隣に攸人が腰を下ろした。彼のトレーの上には、ミニトマトの赤さが眩しいアクアパッツァが横たわっていた。
「早いな。お前もうちょっと遅いだろ」
酸化クロム色の軍支給品腕時計に目を落とす。時計の針は未だ7時を少し過ぎたくらいを指していた―――攸人が食事を摂るのは、早くてもあと1時間は後だったとクレイは記憶していた。
「ちょっと考え事しててね」
照れたように笑みを浮かべた攸人が白身魚を口に運ぶ。
「お前も考え事なんてするんだな」
「お前は俺をなんだと思ってんだよ」
大仰に拗ねたように顔を顰める。ふーん、と相槌を打ちながら、クレイはスプーンをクリームの中に突き刺し、白い塊をかき出す。アルミのスプーンに掬われた生クリーム塊を口に運んで、クレイは眉宇を寄せた。
てっきりとんでもなく甘いのかと思いきや、案外あっさりした味づけだ。それでも幾分疲労感の残っている身体には、その微かな甘さでも心地良かった。
「お前良く朝っぱらからそんなの食えるなぁ。甘くないのか?」
「疲労には糖分が良いんだよ。それにそんなに甘くない」
攸人は首を傾げた。釈然としないように相槌を打った攸人は、再びアクアパッツァを口に放り投げた。
クレイもあまり好みには合致しないパンケーキをスプーンで切り取り、舌の上に乗せた。
かちゃかちゃと食器とアルミが接触する音が鳴る。
クレイは、時折網膜に残光となって閃くエレアの顔に顔を青ざめ、ごくりと蠢動するみさきの咽喉の動作に背徳の悦楽を惹起させ、恐怖のあまり身体が震えそうになった。人間には誰しも狂気が潜んでいる―――そう語ったのは誰だったか。理性などは、人工的に抽出された人間観である―――。
クレイは、エリートだった。正確には、エリート意識と自尊感情、自愛が凝固した存在だった。そしてそれに見合う能力を持っていたが―――正確には持っているが故に、彼は狂気を鱈腹子宮に孕んだ己の事実存在をまるで別な人間のような解離を感じていた。
そして、実戦。超高熱のメガ粒子が飛び交う戦場、MSパイロットの死は形すら残らないことも少なくない。
超高熱で身体が蒸発する。人間の尊厳など欠片も無い、あまりにも画然とした物理的死。死んだという感覚すらなく存在が
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