45話
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周囲を取り囲み、慎重に接続されたケーブルを着脱あるいは再び差し込んでいく。隣に併設される形で設置された管制ユニットに座っていたアヤネはフェニクスの隣に、どこか不安げに並んだ。
医療スタッフがコクピットの中からエレアを壊れ物のように丁寧に運び出す。ぐったりするでもなく、ベッドの上に置物のように横たわったエレアの瞳は未だ閉ざされていた。点滴やらなにやらの処置を施される彼女の側に近寄ると、エレアのガーネットの瞳が重たげに開く。あちこちを恐々と彷徨った後、フェニクスの姿を映した彼女は、強張った表情筋を痙攣させた。
「フェニクス?」
雪のような少女の声に、フェニクスはいつも通りの声色で応じた。そっと握ったエレアの手のひらは氷のように冷たい。その事実に動じなくなってしまったことに苛立ちを募らせ、それでもフェニクスは欠片ほども感情を表出しなかった。
エレアは困惑したように眉間に皺を寄せていた。恐らく今ここがどの時間にあり、また自分の視覚聴覚嗅覚触覚味覚各々が、どういった類の感覚を自分に齎してくれるのかを区分けできていないのだ。未だ彼女は、全は一であり一は全であった時の感覚を引き摺っている。言わばそれは、生得的に全盲だった人間が、不意にヴィヴィッドな世界に投げ込まれた様なものである。あるいは、生得的に全聾だった人間が、不意に躍動感あふれるリズムの世界に投げ込まれるようなものである。
「―――クレイは変だと思ったかな?」
「何がだ?」
「『昨日』の服装。あの靴下ずり落ちないようにする―――」
エレアの表情が歪む。
「あれはずっと前のことだった?」
そうだね。そっか。短い言葉を交わした後、彼女は難儀しながら目を細めた。
「ありがとね」
ずきりと心臓の内側から針が突き出た。
「フェニクスと先生のお蔭で―――大事なこと、知ったから」
右心房のあたりから生えた不可視の棘が不随意筋の壁を突き破っていく。それでもフェニクスは表情をミリほども変えずに、無言で微かに頷いた。
エレアの口が強張る。息が漏れるように喘いだ彼女の口元に耳を当て―――。
―――ま、も、る、か、ら―――?
何か言いかけ、そうしている内に彼女はうとうとし始めていた。
「大尉、そろそろ―――」
医療スタッフの班長を務めている男がフェニクスに声をかけた。脂肪のたっぷりついた顔に、申し訳なさそうな、もどかしそうな表情を浮かべていた。
「―――すまない。貴様たちの邪魔をした」
いえ、と太り気味の男は首を横に振った。それ以上、その男とは話も無く、エレアを医務室へと連れて行った。
「なんて言っていましたか?」
隣に立っていたアヤネは、身を縮めていた。
「―――聞こえなかった」
フェニクスは、エレアが運ばれていく様を見届けながら―――何故か言わなかった。それ
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