45話
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ら違うんじゃないかなとも思うんだ。科学の発展でヒトの身体が解明されて、むしろ叡智に目覚めたんじゃないかって。科学の発展は自然と言うシステムの中に確かに俺たちは存在していて、そして己の中にも実に秩序だった壮大なシステムが存在して。人間存在が、いかに偉大なものなのかを教えてくれたんじゃないか―――科学に基礎づけられた人間存在の尊厳ってのを、俺は考えることがある」
「そうした人間を殺める―――それは、尊厳を持った存在を殺すことだ。たとえ如何様な理由があっても、それは許されることじゃない筈なんだ。己も殺される覚悟があれば人を殺していいってのは一件真っ当な意見に思えるけど―――でも、己の覚悟なんて言う放恣な理由で、どうして人間を殺すことが許されるのか? 所詮それは大義のために何を成してもいいというテロリズムの愚行となんら変わらない」
攸人は身体を震わせていた。赤らんだ目もとから、熱っぽい液体が滴っていた。
「お前はいい人だよ。そうして人を殺すことを悩めるんだ。神がいるかはおそらく論証不可能でそれこそ信仰に依るものだろうけれど―――神がいると仮定して、多分お前みたいな人を神はお赦しになると思うさ。神が存在しないなら、そもそも死んだあとは虚無だ。エピクロスじゃないけどな―――」
半分ほどなくなったクリームの塊に銀のスプーンを滑らせる。僅かな甘さを、味蕾はなんとか拾っているらしかった。
仮に、神が存在したら―――クレイ・ハイデガーという存在は、果たして赦しを与えられるのだろうか。神の恩寵は、このように不完全な欠陥品を救うのだろうか。誰かは、そういう風に調和しているからな、と笑みを浮かべそうだ。誰かは、それが神の知的意思なのであるからして当然だろう、と言うのだろうか。よく、わからない。
「わりい、お前も色々あるのに―――」
「いやいいよ。お前の国の『人間』って言葉が良く指示してるさ。人間の存在はただ己のみで在るのではなく、人と人の間にあるって意味だろ。人間は、孤独じゃないんだ―――」
攸人はいよいよ嗚咽と共にアクアパッツァを口にいれていた。クレイは大丈夫さ、と攸人の肩を叩きながら、最後のパンケーキ片とクリームを口に入れた。結局、味はほとんどしなかった。
※
エレアは、夢を見ていた。
漠然とした感覚に抱かれて、子宮の中を漂っていた。あるいは、それは大洋なのかもしれない―――ともかく、彼女は底抜けの、それこそ自分が間抜けなのではないかと思えるほどに思考がまとまらなかった。
暖かい、と思った。懐かしい感じ。ずっと昔、自分はこういう存在だった―――。
でも、何だろう―――エレアは散らばった思案をまとめていく。何か、違和感があるのは、何なのだろう。
胸の中にぽっと灯った疑心は、されど対し
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