44話
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どうして自分はこんなに愚かなのだろう。どうしてクレイの事実存在は本質存在を殺すのだろう。
エレアを侮辱して、そして後悔することでみさきのことも侮辱して。
何かが頬を伝った。そうしてうじうじしていることに腸が煮えくり返るようだった。
全身を震わせ、顔色を青ざめさせたクレイの本質存在は、虚ろな意識のままベットから抜け出した。
みさきを起こさぬように床に立つ。衣服を着用し、椅子に座ってもまだ瞳からは冷たい液体が流れていた。
いけないことをした。してはならないことをした。
だというのに、何故みさきとのセックスは異様なほどに心地よかったのだろう。その背徳の悦楽に戸惑い、嘔吐感を催しながら、クレイはデスクに突っ伏して音も無く嗚咽を吐いた。
どうして自己の存在はこれほどまでに欠陥品なのか。
所在なく宙を彷徨ったクレイの手が何かに当たる。分厚い、本、だった。拍子に描かれたつぶらな瞳が、親しげにクレイを凝視していた。
ぽつねんと荒野に一人佇むように、クレイは過去と戯れはじめた。ぺらぺらと空気を撫でる紙の音が耳朶を打ち、不愉快そうに顔を顰めたアエルがあてつけのようにクレイの頬をぺちぺちと叩く。
クレイは、右下の端に書かれたページ数、1という数字を目にすると、そこでページを繰るのを止めてその冒頭へと視線を落とした。
幾何学の精神と繊細の精神との違い―――。
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