44話
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心臓が一度、大きく跳ねた。だってそれは、彼女がいる合図で―――そして、確かに部屋の中には人の姿があったからだ。狂乱したように彼女の名前を呼んで部屋に入ったクレイは、しかし振り返ったその人物に息を飲んだ。
「あ、ハイデガー君久しぶり」
ぱっと花開いた無邪気な笑みは、しかしエレアの笑みではなかった。
「―――ミサキさん?」
「そだよ、覚えてくれてたんだ。嬉しい」
にこにことした笑みのまま、彼女―――扶桑みさきがころんと首を横にした。
忘れるわけがなかった。だって彼女は、初めてクレイが性的に欲情して、自慰のネタにして、そして初めて告白して見事に玉砕した女だった。明確に初恋―――を描いたのは、確かにこの極東出身のアジア人だった。
「ミサキさん―――連邦軍に入ってたんですか?」
「うん。MSのパイロットしてるんだ」
平然と彼女は言った。
ニューエドワーズに居て、MSパイロット―――つまりそれは、試験部隊にいるということなのか?
クレイの疑問を感じたのか、みさきは破顔して「警備部隊だけどね」と続けた。
「流石にいきなり試験部隊になんかなれないよ。わたしは頑張ってコロニー警備部隊に入るのでやっと」
特に後ろ向きなところもなく、ころころと言った。
だからか、と思った。試験部隊の人員を記録してある資料には一度目を通してある。すべての人間を覚えているわけではないが、それでも昔の知り合いと同姓同名の名があったら普通記憶に残るものだ。が、コロニー警備部隊には目を通していなかった。
「ハイデガー君はやっぱ凄いね、新任で教導隊に入っちゃうなんて。チュウガク―――ジュニアハイスクールの時から頑張り屋さんだったもんね。初めて聞いたとき嬉しかったよ」
今日は、なんだか褒められる日だ。やはり良い気分になりながらもそれを封殺し、ぎこちない笑みを浮かべた。
「ミサキさんの方が俺よりずっと頭良かったじゃないですか。運動だって出来たし、生徒会長とかだってしてたし―――なんでわざわざMSパイロットなんか目指したんですか? ミサキさんなら官僚にだってなれたでしょう」
「んー、まぁMSって格好いいなぁって思ってさ。それでそのまま」
呆気にとられる。ただそれだけの理由で、MSパイロットの道を選んだのか―――本当に、彼女は頭が良かったのに。才媛、という言葉は彼女のために在ると言うほどの才女には、もちろん官僚なんかじゃなくても様々な選択肢があっただろうに。
いや、そういうものなのだろう。いい仕事に就く―――そういう観念ではなく、己のしたい仕事をする。ただその心のおもむくままに、みさきはMSパイロットを選んだのだろう。
だとしたら、ちょっと羨ましい。クレイはただ、皆から尊敬されたくて―――ただそれだけのために、社会的地位のある教導隊という選択肢を
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