43話
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身体を泡塗れにして、綺麗にした。プルートも、167cmほどもあるエイリィの身体をせっせと洗い、汚れに汚れた水で泡を洗い流す。後はタオルで身体を拭き、BDUに着替えた2人は茨の園の中心地である廃コロニーの中の仮宿舎―――まだ健在だったころホテルとして経営されていた建物の一室へと入った。
元々それなりに高いホテルだったのか、部屋のレイアウトは瀟洒という言葉が似合う。それでも時間の経過と整備してくれる人もいなければ、ベッドのシーツやら以外は埃だらけだ。
茨の園に来てからはすっかり『ご無沙汰』だったせいもあり、エイリィの部屋に入るのは初めてだった。といってもプルートとほとんど変わらないのだが―――。
きょろきょろと差異を見つけようと視線を回していると、枕元に差異化の原因は在った。
黒々とした、ぬいぐるみ、だった。エイリィの部屋に在ったものとは違う―――サイド3で買ってもらった物だろう。
「どったの?」
エイリィはすっかり下着だけになっていた。「あれだよ」プルートもジャケットに手をかけながら、枕元を指さした。
「かぁーいいっしょ?」
「エイリィはそういうのが好きなの?」
タンクトップを脱ぎ去り、カーゴパンツも脱ぐ。ひやりと冷たい感触に身を震わせた。温度調整するシステムが壊れたままなんだ、と茨の園の人が言っていた―――。
「妹が好きだったんだよねー」
「いもうと?」
そだよ、とベッドに腰を下ろしたエイリィが熊のぬいぐるみを腕に抱いた。屈託のない笑み、だった。
「もう大分前に死んじゃったけどね」
エイリィは特に表情も変えずに口にした。
「一年戦争の終わりごろにね。ズムシティで色々あって、そん時に巻き込まれちゃって」
エイリィの言葉は、まるで、単なる歴史的記述を客観的に述べ挙げるような淡白さだった。
その驚きが表情に出たのだろう、エイリィは悲しさなど一部も無い―――そして事実、プルートにも悲哀を感じられない、大人の柔らかな表情をして天井を仰いだ。彼女の白い咽喉元が、目に入った。
「随分前のことだしねぇ―――妹っていっても遅生まれでさ、私が12歳の時に生まれた子供だからあんまし思い入れもないんだよね。」
ころころと笑う―――。
嘘だ、と思った。もし本当にどうでもいいのなら、彼女はあの熊のぬいぐるみを大事になどしない。
人は変わる。生まれたときと物質は入れ替わっている。神経の伝達にしても、まるで依然と同じ人物などいやしない。思想にしても、たった一日で大きな思想の転換が生じることはありうるのだ。だから、時間が傷を癒すというのは全き間違いではない。でもそうではないのだろう。
過去の傷を乗り越えた―――それも多分、違う。エイリィはきっと、今という場所に過去がまるで鈴のように連なって尾を引き、ちりんちりんと清らかで
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