43話
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ーが戻っていく。後は、クレイが何かする余地はない。教導を終え、全体デブリーフィングの後はフリーだ。シミュレーターに籠るか、訳をするか。N-B.R.Dの試験のレポートなどはなるべく素早く、完璧なものを提出しているから大丈夫だ。
ジゼルの声が脳裏で閃く。
待っていてあげて―――本当にそうなのだろうか。確かにそれは事実なのだろうけれど、クレイは異様に不安感を感じてしまう。彼女がもう振り向いてくれない、という妄想が脳みその皺の奥までこびりついて綺麗にならない。
いや、わかっているのだ。不安の原因はわかっている―――自分は躍起になっているだけなのだ。エレアの心が自分から離れてしまうのではないかというその恐怖、そしてただ彼女の心を繋ぎとめるためにエレアに会いたいという卑小なパシオーに操られているだけなのだ。
奥歯を噛みしめ、クレイは視線を彷徨わせる。
どうすればいいのだろう。ジゼルの言葉に従うべきなのだろうか、それとも―――。
「ハイデガー少尉!」
ともかく早くデブリーフィングに出なければ、とさっさと帰ろうとしたクレイは、不意に肩を叩いた声に振り返った。
知らない男、だった。敬礼した男に条件反射的に返礼したクレイは、男の襟の階級章を見てぎょっとした。
中佐―――身を固くしたクレイは、きりっと敬礼に力を込めた。
「第11大隊長のガスパール・コクトー中佐だ。クレイ・ハイデガー少尉―――で、合っているかな?」
西洋系の名前だが、その風采は中東の出にも見える―――人種、という概念の境界線が薄れてこの方そうした見方があまり意味を成さなく放っているが、それでも一瞥すれば大よそわかったりするものだった。
厳つい顔をした痩躯の男は、しかしその顔つきに反して人の良さそうな目をしていた。
「は、第666特務戦技教導試験隊所属、クレイ・ハイデガー少尉であります!」
そうかそうか、と安心したように、あるいは納得―――したようにガスパールは頷いた。
MS大隊を率いている佐官クラスの人間と会うは、士官学校以来4度目だ。単純な技能はもちろん、部隊指揮や平時における隊員の肉体・精神面の状態を常に把握する。現場と上の人間の橋渡しなど、その任務は実に多岐に渡り、平々凡々な人間からすれば、それこそ雲上人だ。そんな人間が、自分に何用があるのか―――緊張しながら、先方に倣い敬礼を解いた。
「カルナップ大尉から聞いているよ。士官学校出の人間で素晴らしい腕のパイロットがいる、とね」
大尉が? と思いながらも、謝意の言葉を口にした。
「あぁ、わたしは彼女とはかつて同僚だったんだ。ティターンズ時代にね」
怪訝な顔をしたのだろう、ガスパールははにかみながら言った。
「まぁ私の経歴などどうでもいいさ、それより君だ。その年で教導隊に選抜されたのだろう? 大し
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