40話
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崩れ落ちたクレイは、ただ気体化したタングステンを肺から絞り出した。
疲れているんだ。そう、前に誰だったかが言ったように、自分は疲れている。だから休まなければ―――。
顔をごしごしと拭った後、倦怠感を背負いながら立ち上がる。足がふらつく。ばちんと太腿を引っ叩いた。
かつ、かつ、とコンスタントに蝸牛を揺さぶる波が鳴る。
もう一階分階段を上る。途中の鏡は無視し、上りきると同時に息をつく。後は階段を右手に曲がり、突き当りを左に回れ右すれば自室はすぐそこだ。
インターホン付きのタッチパネルに手を伸ばしかけると、ご親切にもスライド式の自動ドアは音も無くクレイを出迎えた。
このタイミングで―――? 網膜に映る残像に気取られながら、クレイは所在をなくした足取りで部屋に入った。
こじんまりとした部屋だ。ベッドと机があって、歓楽街で買い足してきたカラーボックスにはぎちぎちと本が並んでいた。早々に2個目の本棚を買い求めるべきだろう。
部屋にはいつもの甘ったるい匂いが横溢していた。
大脳の奥の方の部位の命令で、クレイはベッドの方に目を向けた。
こんもりと膨らんだ毛布。規則正しく上下する毛布の下からは、銀色の光が覗いていた。
動悸が早まっていた。クレイの事実存在性は、確かに彼女の身体の柔らかさと膣の引き締めと感触を、子宮の内のアタラクシアを貪婪に要求していた。
何をやっているんだ。チェアに腰掛け、ぎゅっと目を瞑る。
冷静になれ。疲れているだけだ。早く寝なければ―――。ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟っていると、クレイの気を知ってか知らずかむくむくと毛布が盛り上がり、頂点に達するとずり落ちていく。
目が遭った。薄暗い部屋の中でも恐ろしいほどに妖しく光る一対の真っ赤なガーネットがクレイの奥底をひたと見据えるように、鋭角的な輪郭を刻む。
「どうしたの?」
赤い輪郭は既に崩壊していた。白いかんばせに影を差していたエレアの不安げな顔がクレイに注がれていた。
なんでもないよ、と務めて笑顔を作ったが、エレアは不安げな顔立ちを変えなかった。
全く不意に、彼女は自分を『見て』いるのではないかという不安が鎌首をもたげた。本当に何でもないから、と取り繕っても、エレアの表情は変わらないのだ。
ぞっとした。自分のこの醜さを、よりにもよって彼女に見られているなんて―――。
内心で舌打ちした。そんなわけはないのだ。エレアは普段は見ていない、と確かに言っていたではないか。
頬を、音を立てて引っ叩く。目を丸くしたエレアに、クレイは照れ笑いを返した。
「実はちょっと疲れてるんだ。眠くて眠くて」
よっこらしょ、と大義そうな掛け声をして立ち上がる。クレイに見上げたエレアの赫い瞳は、どんどんと輪郭を失っていた。
エレアの隣に静かに座る。いつも
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