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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
39話
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っている人ばかりでしたから」
 最後の方は、もうほとんど顔を赤くしながら消え入りそうな声だった。
 漠と視線を漂わせた琳霞は、声を出して笑った。
「なにそれ? あたし本当に馬鹿みたいじゃない」
 げらげらと笑う琳霞。どうしてそんなに笑うのか、クレイにはよくわからなかった。
「なるほどね、確かに思い返してみればそんな風な気もする。そう言えば、なんかキョドってたし」
「む…」
 頓着も無く声を出して笑う。半身を起こした琳霞は、再び空を見上げた。
 コロニーの約4分の1を占める市街の光は、相変わらず忙しなく瞬いていた。
「頑張ってください」
 当然、と彼女が鼻息を荒くする。
「頑張れって言葉を誰かに言うのは、本当は好きじゃないんですけど…それでも、僕は頑張ってと言います。人は頑張ればたいてい何でも出来ますから―――僕が教導隊に入れるくらいには、信頼性の高い言葉だということは保証します」
「そりゃ随分な実戦証明ね」
 琳霞が笑う。そうして半身を起こして、彼女はぐいと拳を突き出した。
「頑張るぞ」
 無邪気な笑みと真剣な眼差しが混同したその表情に、クレイもただ頷いた。
頑張る―――努力。
 難しい、言葉だと思った。確かにそれは素晴らしい行為で称賛されるべきものだ。だが、その絶対化は時に悪にしかならない。
 頑張って結果が出ない―――よくあることである。本性からして稚拙な認知能力しか持たないホモ・サピエンスたちは、往々にして結果が出ないことを努力が足りなかったことに還元化してその主体者を責める。だが人間とはそんなにもコギト的な存在の土台に生きているのだろうか。市場原理主義者たちは大真面目に頷くのだろうが、もちろん否である。物理レベルでも思想のレベルでも、人間とは個ではなく現象あるいは場なのである。『生命』とは、様々な要因で成立しているのだ。そもそも、人の産まれその物が偶然に委ねられるものであるという事実を往々にして忘れがちである。
 だから、努力は素晴らしくても絶対視してはならないのである。努力という行為が出来ない人も、したくても出来ない人も、居るのである―――。
 反対に。努力をして、何か成果を得た人間は、何故かそれを己の功績だと考える。努力が出来たことそれ自体が偶然で幸福なことなのに。
 ―――そして、クレイはその現実に気づきながらも、事実誤認している。己の幸福を、恣意的に己の所作にしている。
 あ、とクレイは琳霞に視線を移した。
 つい思案に没入してしまって話を聞いていなかった―――音すら耳に入っていなかったことに慌てて横を見たクレイは、不意に響いた間抜けな鼾にびっくりした。
 ごろんと仰向けになった琳霞は、女性とは思えないような野太い鼾をかいて、とっぷり眠っていた。
 時折、空気が抜けるような半濁音が鳴り、息を詰
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