39話
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っ払っているんだな、と露出したキャミソールの肩紐がずれかかって、なまっちろい肩が顔をのぞかせている光景から目を逸らしたクレイは、彼女との間隔をやや開けて座りなおした。酔っているなら、仕方ないことである。彼女は特に何か言うでもなく、空を見上げていた。
またか、と思った。
サイド3の教導の後、連邦軍の作戦に従事することになった琳霞はそのままニューエドワーズで機体の訓練に明け暮れていた。
クレイも空を見上げた。街の光が連なって、天の川のように―――と思うほどセンチメンタルな思考はしなかったが、綺麗だなとは思った。
何故、彼女は時折自分に絡むのだろう。彼女がこの地に訪れてより、時折クレイにしつこく絡むことがあった。
何故? 彼女とのつながりは、クレイが教導隊の資格を得た試験でクレイと技術試験を行い、クレイに敗北したということだけだ。そこに理由があるのは、なんとなくはわかっていた。だからといって、彼女はそれを根に持っているでもなく―――といっても彼女はクレイをぼろくそに罵倒したりもするが、それは彼女のからっとした性格ゆえに、だ。陰湿に何か嫌がらせをするような質でもなく、彼女の真意はクレイにはよくわからなかった。
「綺麗ね?」
唐突に、彼女が口を動かした。そうですね、としかクレイは応えられず、擬人化した星空を眺めていた。
「昔―――一年戦争の時も、結構きれいだったのよ。ズムシティは」
草叢に寝転がり、琳霞は後頭部で手を組む。懐かしげな声色だった。
一年戦争の、サイド3の空。クレイは考えたことも無かったが、彼女が言わんとしたことはすぐにわかった。
灯火管制。本来それは、夜間に置いて敵からの爆撃を防ぐため、夜間において電灯をつけないようにするというものである。しかし、もちろんコロニーであるズムシティでは爆撃などあるはずもない。サイド3では、むしろ街全体に明かりを灯すという灯火管制が敷かれたのだ。流出・喪失した人口の減少を市民に感じさせないため、無人の街に明かりを灯して人々の活気を感じさせる。そうまでしなければならないほどに、ジオンは逼迫したのである。
否。逼迫した、という過去形で語られるべき事情ではない。一年戦争という爪痕は、精神的にジオンの民を傷つけていたのである―――戦後、繰り返されるジオンの名による戦争のたびに。失われた公国の復活を、あるいは新たなザビ家による支配を。または、本当のジオンの名の再臨を標榜する抗争の度に、その責任はサイド3を嫌悪する風潮が生じた。
本当の、ジオン。その空虚な言葉に顔を顰めたクレイは、隣に寝転がる女性士官を感じた。
本当の。それはどこかに存在するイデアールなものなのだろうか? 否。断じて否だ。越論的なものなどというのは本来の、という形容で語られうるべきではないのだ。世界を括弧に閉じ込めうる
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