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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
36話
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維持管理局を動かせるなんて本当にただの大尉?」
 怪しむ視線を投げる友人に、黒髪の女は妖艶な笑みを見せた後、わざとらしく肩を竦ませた。
「本当にただの大尉だよ。ただ私の後ろにいる人物が恐ろしいというだけさ―――虎の威を借るなんとやら、とな」
 未だ訝る瞳は止めなかったが、金髪の女も肩を竦めて見せた。
「財団、ね。悪いけど変ないざこざには巻き込まないでよ? 私はまっとうな軍人なんだから」
「私の奢りなんだからお前も道連れだ。この金は財団から出ているからな」
「ちょっと何よそれ? 聞いてないわよ」
 あからさまに慌て顔をしたが、赤縁眼鏡の女は構わずにシャンパンの液体を飲み込んでいた。黒金のロングヘアーの女も苦笑いしながら辛口の炭酸液を下に転がした。
「もうあんたとも長いものねぇ。ティターンズ以来?」
 隣の女が思い出すように斜め上あたりを眺める。
「そうか。もう10年近くか―――」
 もうそんなに経っていたことことに少なからずのショックを受ける。
 スペースノイド、しかもサイド3出身者という出自ながらアースノイド至上主義のティターンズへの加入が認められてからもう11年。カウンター席の隣でメインディッシュにフォークを刺しながら優雅に食事をする友人と出会ったのは0085年だった。安っぽい黄金の液が透明なグラスに注がれ、小粒の泡がゆらゆらと立ち昇っていく―――。
「彼女、元気そうね?」
 口に何か入れたままのせいでもごもごと異音を立てていた。
「一緒に居た彼がカレシなわけ?」
「あぁ、そうだな」
 臓腑の当りに苦いものを感じた―――が、黒髪の女はそれを表出することも無く、手首を器用に使ってワイングラスをくるくると回した。左右前後のベクトルの運動に煽られたシャンペーニュが渦を巻いていた。
 かつての同僚は眉を険しくしたまま、素気なく相槌を打った。
「お前のお眼鏡には叶わないか?」
「まぁ面だけ言えば失格ね」
 ぴしゃりと叩くように言う。
 この同僚との付き合いはそれなりに長いが、男がらみでは妥協を知らない女だった。彼女にとっては、恋人にするならどんなに性格が良くても顔が彼女の水準以上でなければまず眼中に無価値なものとして映るのだ。
「まぁでも何か彼女にとっていいことがあるんでしょう? そもそも選んだのは彼女なんだから」
 ね、と眼鏡の女が視線だけをこちらに寄越す。黒髪の女は少しだけ言葉を飲み込んだ後、ただ眼鏡の女の声に頷いた。
「―――そう、だな」
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