35話
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には到底成し得ない妙技ですよ。そうでしょう?」
ねぇ、ともう一人、やや小太りのほうの男に笑みを向ける。
困惑を纏った男の視線がもう背の高い男と交錯する。
アイコンタクトをとったのだ。その一瞬の動作をクレイは見落とさなかったが、かといってクレイは鬼の首を取ったような安堵を覚えたわけではなかった。
どうやら事前にこの場所の出来事を何らかの手法で知り得ていた―――確かにこの眼前の人間は単なる救助目的ではない。
目的。考えるまでも無い、クレイは背後の少女の存在を脳裏に描いた。
だが何者だ? ジオン共和国が? それとも別の―――? 湯水のように湧き出す思案全てが虚しかった。たとえ相手が不穏な何かであることを把握したとしても、クレイにはどうしようもなかった。完全武装している男が2人を相手にクレイはほぼ丸腰。いざともなれば、3秒と経たずに―――。
頭の中でビープ音がけたましく鳴り響く。滅茶苦茶に打ち鳴らされた鐘が轟音を炸裂させる。
相も変わらず酷い音が頭の中で鳴り響き続けていたが、クレイにはどうすることもできなかった。
誰かの声が耳朶を打った。自分の名を呼んでいる気がしたが、遠方より届く雷鳴のような音がその声を飲み込んで―――。
ハッとクレイは空を見上げた。洞窟の縁と木々の間の漆黒の空、クレイは確かにその音を聞いたことがあった。
「これは―――!?」
男が狼狽えて同じように空を見上げる。
音は確かに明瞭な輪郭を描き、クレイが見知った《リゼル》が搭載するZ計画系の新型ミノフスキー・イヨネスコ核融合炉が迸らせる咆哮の轟きだった。コロニー内の大気を蹂躙するほどにスラスターの閃光を爆発させた18mの巨人が上空に舞うや、サーチライトの眩い閃光を降らせた。
「ハロー! 聞こえてるー?」
外部敷設されたマイクから出力された声は、聞き覚えのない音声だった。スリッド型のカメラアイの奥に潜む単眼がクレイを見降ろしていた。
666の《リゼル》ではない―――クレイの目は、ゆっくりと木々をへし折り、草花をまき散らしながら大地に足をつけた《リゼル》のフロントスカートに描かれたハートマークと矢のマークを捉えた。
まだ遠くない記憶の何かと重なり合う―――。
スリーアローズ。記憶の中で写真撮影されていた女性と《リゼル》の姿が重なり合う。真っ赤なゴーグルカメラの光と眼鏡越しの瞳がシンクロし、クレイの瞳を見返した。
「フェニクスに頼まれてタクシーしに来たわよ」変わらずフランクな女性の声がコロニーの中に響く。
「ささ、この陰険な場所から帰りましょ?」
クレイは、あの時スリングショットを着ていたプラチナブロンドの女の姿を思い浮かべた。
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