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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
35話
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』をしたことなど一度もなかった。彼女はころころと笑った後、クレイの手をぎゅっと握った。
「あっちに、いこ」
 顔を赤くしたまま、もう一方の手で森の方を指さす。先行く彼女についていき、密生する木々の中のみすぼらしい一本の元へたどり着くと、蝋の肌の少女はおずおずとクレイに背を向け、支えにするように樹木に手をついた。
 何も、言わなかった。ただ、腰まで伸びるほどの重金属の髪が水滴を垂らしていた。
 何も、言わなかった。ただ、心臓に肺が圧迫されて呼吸が苦しくなりながら、彼女の括れた腰に手を当て、すぐに手のひらほどの胸と白に青い血管を透かした太腿に手を伸ばして―――。
 もうそれからはよく覚えていない。確かにクレイは行為に及んだが、その内実をどのようにこなしたのかはとんと記憶になかった。ただ、確かに想起しえたのはエレアの膣の締まり具合と啼き声だった。クレイは行為の終了と共に脱力し、そのまま雨でぐしゃぐしゃになった地面にこけて泥まみれになったのである。
                    ※
 火が、談笑していた。
 木を苗床にし、ぱちぱちと密やかに語り合う火は仲睦まじげだ。ゆらゆらと身体を揺らす様はなんとも雅で、自然と心も和む―――・
 その他にはエレアとエルシーの健やかな寝息がただ聞こえるだけだった。
 洞窟の向こうを見る。外はもうすっかり風は止んでおり、雨雲も困惑気味に水分を地面に垂らしては吸い込まれていくだけだった。
 今日にでも帰ることも可能ではあっただろう。だが、暗闇の海中ゴムボートを漕ぐのは躊躇われた。プロフェッショナルがいるのならともかく、クレイもエレアも所詮は軍事課程の一環で習っているに過ぎないのだ。今は拙速ではなく遅功を得るべきだろう。仮にゴムボートがなくなっていたとしても、朝になってから発煙筒でも焚けばいい。
 うとうとと意識が揺らぐ。今は、何時ごろだろうか。体内時計の具合はAM.1:00あたりだろう。時間の狭間を過ぎ去ってから1時間。疲労感を感じるには大分早い時間だったが、まだ疲労を引き摺っているのだろう。それに今日は今日で色々あった―――隣で時々珍無類な鼾をかくエレアを意識した。
 女の子とは案外太い神経をしているのだろうか? おろおろするばかりだったクレイに対し、エレアはほとんど平然としていたことには感心したものである。
 クレイがいよいよ睡眠に倒れ込まなかったのは、ふと何かを感じたからだった。
 音―――音、だった。静謐が横溢した空間の中に、ほんの微かに雑味が混じったのだ。定期的にリズムを刻み、濁った音を引き摺る音。壁に寄りかからせた身体を起こし、粗野な音源を、洞窟の外に目をやったクレイの網膜を刺激したのは、あまりにも鋭角的な白の閃光だった。それが人工の光で、ライトの光だ―――と理解したのは、泥を撥ねた軍靴
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