35話
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いに紅くして胸に顔を埋めていた。
心臓の上をエレアの熱い吐息が擽る。いよいよ心臓がはち切れんばかり拍動した。左心室が血液を絞り出し、右心房に酸欠になった血流が大量に押し寄せては心臓と肺を駆け巡った。
だから、と腕の中でもがいたビスクドールの少女が恨めし気にクレイを睨む。ぎゅっと結んだ唇は力を入れすぎて戦いていた。
「こ、ここで…?」
わざとらしくきょろきょろと周囲を伺う。白い砂浜の先は灰色の海と空が混然とした世界は悪天候に閉ざされていたが、空間的物理的には酷く開けていることに違いはない。流石に尻込みした―――クレイは童貞なのだ。もちろんいつかは捨ててやろうと息巻いていたし、絶対に『魔法使い』になぞなってたまるかと鼻息を荒くしたものだが、初めてが外だなど誰が想像しよう?
「嫌なの?」
エレアの声は不機嫌そうだった。実際は、エレアは羞恥のあまりに不機嫌さを装っていたのだが、何分クレイは狼狽していてとんと気が付かなかった。
「嫌ならいいよ」と頬を膨らませてぐいぐいとクレイの身体を押しのけるエレア。
「嫌なわけじゃないんだ」腰に回していた右手をもっと上へ、肩のほうまで上げると腰に回したままの左手と合わせて、逃れようとする矮躯を離さぬようにした。
「ただ外でするのは中々羞恥を喚起させる行為だけれどエレア的には大丈夫なのかなと思った次第で」
白い肌を一層赤くしたエレアは身を縮こまらせて声を咽喉の奥に押し込めてしまった。恥ずかしいのは恥ずかしいのか、思惟したクレイは、肩に回した手をエレアの頬に当て、長く垂れるもみあげをそっと掻き上げると、人差し指と中指で銀色の髪を絡めながる。そのまま小指と薬指を形のいい頤に滑らせ、17歳にも見えない少女の顔をくいと上げた。
エレアは笑った。クレイは緊張してヘンテコな顔になっていたからだった。笑みを穏やかにした小さな人が少しだけ背伸びをする。それに合わせて、クレイも少しだけ実を屈めた。
仄かに唇が触れ合う。たじろいだエレアの薄い肉感の感触が離れ、温い吐息がクレイの唇と鼻先を撫でる。顔を離して今一度サファイアにミルキークォーツを描いてから、再び火照った口唇同士の境界線を綜合させた。
恐る恐る、勝手のわからない少年のような青年は唇の溶解線に舌を挟み込む。びくりと身を揺すったものの、エレアも同じようにおっかなびっくり舌を出し、その境界的器官を絡めあわせた。
どれほど猥雑なキスをしていたのか、はたして短かったか長かったか。彼女の腰と内腿に手を這わせることにも執心していたクレイが一端行為を中止したのは、何より呼吸困難に陥ったせいであった。彼女の唇との接触を止めると同時に、顔を真っ赤にしながらげほげほと間抜けなほどに噎せた。肺が軋むほどに、咳嗽を繰り返した。
「慣れていないもので…」
実際『唾液の交換
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