35話
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緩慢な動きでクレイを瞳に投影した。寒さで色を失った彼女の薄い唇が動いたのかすらもよくわからないほど小さく動き、蚊の羽音のような声を漏らした。
「怖かったんだよ」彼女の指が強く絡まる。
「クレイが倒れた時死んじゃうのかって…居なくなっちゃうって思ったら怖くて…ねぇ、居なくならないよね? ねぇ?」
ほとんど波に飲み込まれそうな声は、しかし確かに音となってクレイの鼓膜を明確に打ちならす。彼女の顔が酷いくらいに歪み、頬を液体が垂れていく。
絡んだ指の力が緩む。するりと手元から抜けていった彼女の白い手がクレイの身体に回り、酷く弱弱しい冷たい感触が身体の正面に触れた。
何故、と大脳新皮質から言葉が這い上がる。腕の中で弱弱しく震える冷たい少女の強くクレイを掴んで離さないその想いは、クレイにはもう当惑するしかなかった。だってそうではないか。クレイとエレアはまだ出会って数か月ほどの仲で、しかもそこまで親密に過ごす時間が長かったわけではないのに―――。初めてエレアと唇を触れあわせたあの日も、そして今日も、彼女の愛はあまりにも唐突で苛烈だった。
だが、とクレイも少女の身体に手を回す。確かに彼女の愛は唐突で戸惑いを覚えるが、それ以上にクレイは悦楽に満たされていた。こんなにも真っ直ぐに誰かから想いを突きつけられたことなど、クレイのさもしい人生には今まで塵ほども無かったのである。
「場違いかもしれないけど」エレアの身体をもっと強く抱き寄せた。少女の身体は未だに小刻みに震えていた。
「すごく嬉しいよ。そこまで想ってもらったことなんて、無いものでして」
恐る恐るといったようにエレアが顔を上げる。彼女の白い目もとは、少し赤らんでいた。
「エレアが俺のことを好きだと思ってくれるなら、俺はエレアのことずっと大切にするよ」
心臓が早鐘を鳴らす。
野暮ったい男には似合わない台詞だった。歯が浮くような気分をありありと感じながらも、まぁいいじゃないかと思った。ただでさえ未経験な事態のただ中にいるのだから、身振りが多少違っても―――。
不意にクレイは自分の身体に生じたいつも通りの変異を感じた。その変異はクレイだけでなく、エレアもほぼ同時に理解した。その異変はメタフィジカル的な現象ではなく極めてピュシス的な現象だった―――平易に言えばクレイの下半身はエストロゲンによっていつも通りの反応を起こしていたのである。青臭い台詞は台無しだった。
2人してぎこちなく微笑を向い合せた。エレアの目元はまだ赤かったし、降りしきる雨のせいで唇にはいつもの瑞々しさは無かったが、沈鬱さはもう霧散していた。
「したいの?」
エレアの声が耳元を擽る。
彼女が何を言ったのか理解するのに、大分時間がかかった。そして理解して、「はい?」と間抜けな返事をして彼女の顔を伺えば、ほおずきみた
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