35話
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ぼんやりしていたため、声をかけてもうんとかすんとかしか語らないことの方が多かった。
砂浜に着いたのは、クレイはいつものように吃りながら会話に苦慮し、そしてエレアはちっとも楽しそうじゃなかったことに心が砕けそうになってきた頃合いだった。
「まだだね」
エレアの声は砂浜に打ち寄せた灰色の波の割れる音に吸い込まれていった。波の高さを素早く図ることはできなかったが、海際からそれなりに距離があるのに、クレイとエレアが居る場所まで淀んだ塩水の飛沫が降りかかってくるほどだった。顔に着いた海の破片だか雨だかを拭ったクレイも、エレアに同意した。
明日までに止むだろうか。空を見上げたが、淀んだ雲がのっぺりと広がる空からは天気が安定する様子は窺い知れなかった。当初の懸念だった軍事用の、黒々として不釣りあいに大きなゴムボートは、近づいてみれば雨と波にさらされて水浸しになってこそいたが、しっかりロープを木に括り付けられていて大丈夫そうだ。一応念を込めてヤシの木に括り付けたロープの部分を調べてみたが、やはり勝手に解けてボートがなくなることはなりそうだ。しかし、微笑とともに大丈夫そうだね、とエレアの顔を伺ってみたがまだ顔色はくすんでいた。まだ、彼女は何か不安を抱えているのだろうかと思案してから、クレイは戸惑いがちに「エレアは大丈夫?」と声をかけた。少しだけ、彼女は首をかしげることで疑問符を示した。
「いや、ほら。エレアはその―――人工的にニュータイプの能力を付与されてるんでしょ? どういう原理かは知らないんだけど、薬とかを使っているんだったら定期的に投与しないのは不味いのかなとか思って」
虚を突かれた様な顔をしたエレアは、今日初めて表情を微かに緩ませた。彼女は大丈夫、と言いながら、小さく首を横に振った。
「確かに定期的にお薬を飲まなきゃだめなんだけど、でもそんなに頻繁じゃないから。先生が言ってたけど、わたしは結構新しい技術で作られてるから昔ほど不安定じゃないんだって」
エレアは特に思うところも無いように、すらすらと口にした。
脳の皺にエレアの言葉が引っかかる。先生とはエレアの生体管理に関わっている医師だろう。『新しい技術で作られている』―――その言い方が棘を含み、深く刻まれたクレイの脳のクレバスに魚の骨のように突き刺さる。だが、クレイは特にそれを表に出そうともせずに「なら良かった」とだけ応えた。
もう一度空を見上げて、雨脚と並みの具合からして今すぐ帰るのはやはり無理そうだということを改めて認識した。
「帰ろうか」
くいとエレアの手を引く。いつの間にか5指が絡まった彼女の手は、微かに震えてた。少女はクレイの言葉に反応せず、蝋人形のように平坦な顔でルビーにサファイアを映していた。
もう一度彼女の手を引っ張る。ようやく身体を動かしたエレアは、恐ろしく
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